【第39話】報酬はセックスですか?
「報酬というと? やはり前回と同じ条件ですか?」
琴音先生に問われて、阿久野は答えた。
「いいや、『自由』だ。俺は自由を要求する」
「自由?」
「あんたとのセックスなんて、そんなのは、いっときの快楽にすぎないからな。それよりも、この学校で何をしてもいいというお墨つきをもらいたい。最高の学園生活を送る権利をくれ。それが、俺が望む報酬だ」
「学校で何をしてもいい権利ですって? そんなの……いち教師でしかない、私の権限では、とても無理です」
「まあ、そうだろうな。だったら、こうしよう。あんたはテニス部の顧問だ。俺がテニス部の中で何をしても、今後はずっと、見て見ぬふりをしろ。テニス部のルールも、これからは、すべて俺が決める。だからといって俺は、キャプテンになりたいわけじゃない。キャプテンの仕事なんて面倒だからな。おまえは、俺の命令をキャプテンに伝える係だ。つまり俺の操り人形──奴隷だな」
「なんて人なの……」
「どうする先生?」
「あなたの望みはわかりました。でも、あなたが負けた場合はどうするのですか?」
「そのときは自主退学して、二度とおまえらの前には現れねえよ」
「……いいでしょう」
「試合はダブルスでどうだ? こっちは俺とスネオで組む。そっちは先生と伊勢カイトで組めばいい」
「スネオ……って、その人ですか? テニスの経験はあるのですか?」
すると、スネオが答えた。
「まあ、ちょっとはね。点数の数え方ぐらいはわかるよ。1点取ったらフィフティーンだっけ、いや、サーティーだっけ? テニスなんて、しょせん女や子どもがやるスポーツだろ。簡単だよ」
どうやらスネオはほとんど素人のようだ。
それなら、勝機は十分ある。
琴音先生は少し考えてから口を開いた。
「わかりました。やりましょう。カイトさん、できますか? まだ傷は痛みますか?」
「大丈夫です。1試合ぐらいなら」
こうして、僕と琴音先生、対するは阿久野とスネオで、ダブルスの試合をすることになってしまった。
*
僕と阿久野はテニスウェアを着ているが、スネオはTシャツにGパン、琴音先生にいたってはブラウスにミニスカートだ。
「先生、そんな格好でテニスできますか?」
「大丈夫です。ミニスカートは動きやすいですから」
いや、そうじゃなくて。
パンツが見えちゃうことのほうを心配しているのだが、本人は気にしていないようだ。
「もう日が暮れる。勝負は4ゲーム先取、ノーアドでいいな」
早く決着をつけるには、妥当なルールだ。
阿久野の提案をのんで、試合は始まった。
ラケット・トスの結果、最初は阿久野たちのサービスゲームとなった。
意外なことに、サーブのポジションについたのは阿久野ではなく、スネオのほうだった。
レシーブは僕。
「じゃあ、いくよ!」
スネオがボールを投げ上げ、サーブのモーションに入ったところで、僕はヤツの嘘にようやく気がついた。
素人なんかじゃない。
スネオのサーブのフォームは、プロテニス選手と同様に美しく、ムダのないものだった。
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