【第37話】ケンカ殺法を破れますか?

マッチョはニックネームの通り、筋肉隆々の体型だ。

バラキンほどではないが、身長もかなりあるので、超人ハルクみたいだ。


指の関節をポキポキ鳴らすと、マッチョはいきなり殴りかかってきた。


「うおりゃああっ」


本格的な空手の使い手であるバラキンとは対照的に、こちらはおそらくストリートファイトのみで叩き上げられたであろう、力任せの荒々しい、自己流のケンカパンチだった。


ある程度パターンを予測できる格闘家と違って、自己流の動きは予測が難しい。

──だが!


僕はとっさに左へステップして攻撃をよけながら、体重移動した勢いを利用して、同時に右足を蹴り上げた。

マッチョの股間をめがけて。


僕の右足の甲が股間にヒットした。

ぐにゃり。

男性の急所を蹴ると、こんな感触なのか。

いやな感じだ。


「ぶぽっ!?」


悲鳴ともうめき声ともつかない、奇妙な声をもらしながら、マッチョは両手で股間を押さえた。


「自己流の動きは予測しにくいけど、スキも多い。手加減しておいたから、タマは潰れてないと思うよ」


「くっ……ちっくしょう!」


まだ戦意を失っていないマッチョに対し、僕は両手首から先をだらりと垂らした。

さっきバラキンがやった、「うらめしや~」のポーズである。


すると、みるみるマッチョの目が戦意を失い、恐怖の色を帯びた。

バラ手という技の恐ろしさをよく知っているのだろう。


「ま……まさか! やめろ!」


「問答無用!」


そう叫ぶと、僕は両手首のスナップをきかせて、マッチョの顔面を突いた。


「うぎゃあああ──っ」


マッチョが大きな悲鳴を上げた。

だがその声は、テニスコートを囲むように生い茂っている樹木に吸収されて消えた。

マッチョは顔面を両手で押さえながら地面をのたうち回っている。


ことの成り行きを見守っていた阿久野が、中肉中背の3人とスネオの後方から僕にたずねた。


「ボクシングだけでなく、空手も使えるのか? おまえはいったい何者だ?」


「ボクシングも空手も使えません。ボクシングは漫画やアニメで見たのをそのままやってみただけだし、空手の技は、さっき、そのバラキンって人がやったのをマネしただけです」


「ウソをつけ! バラ手や金的が、一度見ただけでマスターできるわけがないだろうが!」


「いや、僕はちょっと特殊な体質っていうか……。でも、ちなみにバラ手は使ってません。痛かったと思うけど、ただの顔面パンチです。さすがに目つぶしは残酷すぎて、僕にはできません」


「う……うるせえ! おい、おまえら! なんとかしてそいつを痛めつけろ!」


すると、「おまえら」呼ばわりされた中肉中背の3人とスネオは、お互いに顔を見合わせた。

やはりこの4人は、さっきの2人よりも戦力がかなり落ちるのだろう。


それは、阿久野の焦った表情からも見てとれた。


仮にこの4人が同時にかかってきても、たぶん僕なら倒すことができるだろう。

ちょっと安堵したとき、スネオが3人に耳打ちした。


何かを指示された中肉中背の3人は、2人と1人に分かれた。

そして2人は、それまで阿久野のそばで状況を見守っていたあおいちゃんのもとへ走り寄った。

嫌な予感がする。


「痛っ! な、何よ!? 何するの!? まさかエッチなこと!?」


2人はそれぞれ、あおいちゃんの腕を1本ずつ固定し、動きがとれないようにした。


口を開いたのはスネオだった。


「おい、カイトとかいう少年。なんだかわからないけど、とにかく、おまえが相当強いことはわかった。だが、強いだけじゃ勝負は勝てないってことを教えてやる。ちょっとでも抵抗してみろ。この子の手足を折ってやる」


「えっ!? わけがわからないよ。あおいちゃんは君たちの仲間だろう? 人質っていうのはふつう、敵の仲間をとるものじゃないですか?」


「フフン、この子には今回のことで協力はしてもらったが、べつに仲間でもなんでもねえ」


「いや、僕の仲間でもないし! だから僕が彼女を助ける義理はないですよ」


「じゃあ、いいんだな? この子がどうなっても」


「う……」


確かに、僕にはあおいちゃんを助ける義理はない。

理屈では、スネオの脅迫は成立していないように思える。


だが、この状況で、僕は彼女を見捨てることはできない。

こいつは、それがわかっているのだ。

やはりスネオは要注意人物だった。


中肉中背の残った1人の男が、僕の顔を殴った。

1回、2回、3回……。


僕は血反吐を吐きながらうずくまる。

耳の近くを殴られたので、キーンと耳鳴りがして、聴力を奪われた。


うずくまる僕の腹を、男は蹴る。

1回、2回……。

このあたりから、意識が遠のいていった。


薄れていく視界の中で、地面に横たわった僕の胸を、スネオが踏みつけながらいった。


「阿久野どうする、こいつ?」


「写真を撮ってからボコボコにするつもりだったが、まあいい。順番は逆だが、裸にしろ」


「了解」


スネオが僕のベルトに手をかけた。


♪∽♪∝♪——————♪∽♪∝♪


『テニスなんかにゃ興味ない!』を

お読みいただいてありがとうございます。


この物語は毎日更新していき、

第50話でいったん完結する予定です。


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