【第29話】三太郎の悩みって何ですか?

「話はみんなから聞いた。カイト、先生には何をいわれた?」


職員室から出てきた僕に、廊下で待っていた三太郎が心配そうな顔で声をかけてきた。

さすがにもう、三太郎の耳にも入ったようだ。


「校長先生に、さんざん脅されたよ。東京都の条例では、小学生をラブホテルに連れて行ったら犯罪とみなされ、未成年であっても補導の対象となる──ってね」


「ほ、補導!? それで? カイトはどう答えたんだ?」


「もちろん本当のことをいったよ。確かにラブホテルの前を通って写真を撮られたけど、やましいことは何もしていませんって」


「そうか……。で、校長は?」


「琴音先生が、僕はそういうことをする人間ではないって主張してくれたおかげで、校長先生はいちおう信じてくれたみたい。SNS業者に問い合わせて、投稿を削除してくれるように申請するって」


「それはよかったな。教室でも、新菜が『カイトがそんなキャラじゃないことは私が保証するわ』っていったら、みんな納得してたぞ」


「さすが委員長。こういうとき、新菜は頼りになるね。でも校長先生が、とりあえず今日は帰って、自宅謹慎してろって。明日以降のことは夕方の職員会議で話し合って、その結果を連絡するって」


「そっか……。まあ、マスコミが学校に来たりしたら、やっかいだからな。しかし、そのあおいちゃんって子は、どうしてそんなことをしたんだろ。何か小学生の恨みを買うようなことを……いや、カイトがそんなことをするはずないか」


「うん。見当もつかないよ。本人に聞こうにも、名前しか知らない子だし。とりあえず帰って謹慎するよ」


「そっか、わかった。ところで琴音先生はまだ職員会議中なのか?」


「ううん。とりあえず朝の会議は終わって、琴音先生は体育館に向かったよ。三太郎はそろそろ1時間目の授業が始まるんじゃないか?」


「ああ、そうなんだが……ちょっと琴音先生に相談したいことがあって、現国の授業はサボろうかと」


「サボるの!? 確かに朝イチの現国の授業は眠いけど、サボると内申に響くよ?」


「いや、一刻も早く相談したいんだ」


「そんなに深刻な悩みなの!? じゃあ、僕も一緒に行くよ。琴音先生には、職員会議で僕をかばってくれたお礼をいいたいし」


「カイトも一緒に!? ……まあ、いいか。もしかしたらカイトも聞いておいたほうがいいかもしれない話だと思うし」


「僕も関係あるの!? いったい何の話なの!?」


「ここではちょっと……」


こうして僕と三太郎は、一緒に琴音先生のところへ向かうことになった。

それにしても、僕にも関係ある悩みごとって、いったい……?


   *


「あら、カイトさん。まだ帰ってなかったんですか? 何かご用ですか?」


「三太郎が、琴音先生に相談ごとがあるっていうから、ついてきました。先生、1時間目は授業ありますか?」


「いいえ、今日の授業は2時間目からだから、大丈夫。でも準備があるから、20分ぐらいしか時間がないけど、いい?」


三太郎はうなずいた。


「うん、それぐらいあれば十分だと思う。どこか静かな場所……できれば他の先生がいない場所で話せますか」


「ええ、それならこの職員室でいいと思うわ。他の先生はみんな1時間目の授業に向かったから。さっそく始めましょうか。いったいどうしたの?」


僕と三太郎は、まるで女医さんの診察を受けるみたいに、琴音先生の席の前に用意してもらったイスに並んで腰かけた。


三太郎は、おもむろに口を開いた。


「包茎なんです」


♪∽♪∝♪——————♪∽♪∝♪


『テニスなんかにゃ興味ない!』を

お読みいただいてありがとうございます。


この物語は毎日更新していき、

第50話でいったん完結する予定です。


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