テニスなんかにゃ興味ない! ~保健体育の美人新任教師が部活の顧問に! しかしここだけの話、先生はテニスより性教育に力を入れている~【全年齢対象】←ここ大事
【第25話】落ち込んだらどうすればいいですか?
【第25話】落ち込んだらどうすればいいですか?
「何のために?」
小古呂さんに「うつ病」の症状が出て、落ち込んだときに励ますため──とはいえない。
「試合中に、気がついたことをアドバイスできるかな、と思って」
「残念ながらテニスでは、試合中のアドバイスは禁じられているの」
「えっ、そうなんですか? 卓球とかバドミントンの試合では、コーチがアドバイスしているのを見たことがありますが」
「でも、なぜかテニスではダメなの。とても厳しい競技よね」
「ふうん……。じゃあ、野球みたいに、サインで指示するのは?」
「ダメ」
「それもダメなんですか!? テニスの選手って、そんなに孤独なんですか? どんなに調子が悪くても、自分1人だけで作戦を考えたり、自分で自身を励ましたりしないといけないってことですか?」
「そう──」
なんと過酷なスポーツなんだろう。
テニスというのは、見た目では想像できないぐらい体力的にハードな競技だということは、すでに体感済みだ。
そのうえ、孤独にも打ち勝たなければならない、精神的にもハードな競技だったのか。
「うつ病」の彼女が試合に勝てなくなるのも当然だ。
では、僕にできることは何もないということか。
僕が返答に困っていると、小古呂さんが腕時計を見ていった。
「──そろそろ試合。行かなきゃ」
もう時間がない。
本当に、本当に僕にできることは何もないのか。
頭をフル回転させる。
「小古呂さん!」
「?」
「何か書くもの──ペンはありますか?」
「あるけど」
僕は小古呂さんからペンを借りて、ポケットに入っていたコンビニのレシートの裏に文章を書き込んだ。
それを折りたたんで、小古呂さんに差し出す。
「これならいいんでしょ?」
「これは?」
「僕から小古呂さんへのアドバイスです。でも今、読んでしまうと効果がなくなる内容なので、試合中に調子が悪くなったり、落ち込んだりしたときに読んでください」
「試合前に読むと効果がなくなるの?」
「はい。これは試合中に読まないと意味のないアドバイスなんです」
「ふうん……。よくわからないけど、ありがと」
とぼとぼと自信なさそうに試合に向かう小古呂さん。
その背中を、僕は「がんばって」とつぶやきながら見送った。
*
「どんなアドバイスをしたの?」
いきなり声をかけられ、驚いて振り向くと、そこには琴音先生がいた。
その後ろには、新菜、長内さん、そして三太郎もいる。
「琴音先生! ずっと見てたんですか?」
「ええ、そこの建物の陰で、あなたたちが練習しているときから見ていました。でも、何を話しているのかまでは聞こえませんでした。いったい小古呂さんに、どんなアドバイスを?」
「いえ、テニス初心者の僕に、アドバイスなんてできません。相手はプロですよ?」
「そのわりには、長く話し込んでいたようですが」
「テニスっていうのが、精神的にタフな競技だということを彼女に教えてもらっていました」
すると、新菜が声を上げた。
「教えてもらってどうするのよ! 『うつ病』かもしれない小古呂さんを励ましに行ったのかと思ってたわよ! もう、がっかり!」
「新菜にいわれるまでもなく、自分で自分が歯がゆいけど、うまい言葉を思いつかなくて」
「とにかく──」僕をフォローする感じのタイミングで、琴音先生がいった。「──小古呂さんの試合を観にいきましょう」
*
僕たちは観客席で小古呂さんの試合を観戦した。
小古呂奈江さんの対戦相手は、三船エリカという20代半ばの選手だった。
肩幅が広い、男まさりの体格で、身長も175センチ前後はありそう。
褐色に焼けた肌が、色白な小古呂さんとは対照的だ。
非常にパワフルなボールを打つが、ミスも多い。
序盤は、堅実な小古呂さんと、強打の三船さんとで、一進一退の均衡を保っていた。
しかし中盤以降、調子を上げてきた三船選手の強打が決まり始め、小古呂さんはあと1ゲーム取られたら負け、というところまで追いつめられてしまった。
コートチェンジでベンチに腰かけた小古呂さんは、ガックリとうなだれている。
「ねえカイト、何かアドバイスしてあげなさいよ」
新菜が僕に詰め寄る。
「いや、テニスでは、試合中には誰もアドバイスしちゃいけないんだって」
「じゃあ、どうするの!? このままだと負けちゃうよ!?」
「そんなこといわれても……」
僕が困っていると、コート上の小古呂さんがポケットから白いものを取り出した。
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『テニスなんかにゃ興味ない!』を
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この物語は毎日更新していき、
第50話でいったん完結する予定です。
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