【第17話】愛してるのにダメですか?

「僕と新菜が?」


「あら、やっぱりそう見える?」


新菜はうれしそうだ。


「んー……。こうして見ていると、付き合っている気もするし、そうじゃないようにも見えるので」


この長内マリという子は、なかなか鋭い。


確かに、僕は新菜から告白された。

僕のほうも、新菜のことを好きだ。


しかし、僕は琴音先生のことも同じぐらい好きになってしまった。

こんな気持ちのまま、どちらか一方と付き合うわけにはいかない。


そういう微妙な状況なのだ。


「付き合ってないよ」


「ちょっとカイト!」


「新菜、付き合ってないのは本当だろう? 幼なじみだけど僕たち、デートすらしたことないんだし」


「う……」


「そうなの!? よかった!」


「長内さん、『よかった』って、どういうこと?」


「実は私、伊勢君のこと好きなの」


「「えええっ!?」」


ド直球すぎる告白に、思わず新菜とハモってしまった。


「私、テニスは4歳からやってるの。そのせいか、歩き方や、走るときの姿勢なんかを見るだけで、だいたいその人のテニスの実力がわかるの。だから、伊勢君を初めて見たとき、すぐに上級者だと思ったわ」


「いや、僕、テニスは本当に初心者なんだよ」


しかも、そのこととド直球の告白がどうつながるのか、さっぱりわからない。


「うん。伊勢君はどうやらテニスに関する知識はほとんどないみたいだから、初心者だというのは本当だと思うの。でも、あなたの動きはけっして初心者のそれじゃない。だから伊勢君に興味が出ちゃって、ついつい目がいっちゃって……気がついたら、好きになってたの」


すると、新菜が僕の前に立ちはだかった。


「ちょっと長内さん! カイトを好きになったのは、私が先ですからね!」


「でも伊勢──カイト君は、『浜尾さんとは付き合ってない』って」


「そ、それは……いろいろ事情があって……」


「だったら、私にも権利はあるでしょう。ね、伊勢君?」


「あ……うん。いや、どうなんだろ?」


新菜と琴音先生だけでも十分複雑な関係なのに、ここに長内さんが加わるとなると、もう、どうしたらいいのかわからない。


僕がとまどっていると、新菜が長内さんにたずねた。


「とにかく! 私とカイトは幼なじみなのよ。付き合ってこそいないけど、お互いを十分に知り尽くした関係なのよ。その点、あなたはカイトのこと、何も知らないでしょ? そんなあなたがカイトのこと、どれだけ好きだというの? 私、絶対に負けないんだから!」


すると、長内さんは視線を新菜から僕に移し、じっと見つめてからいった。


「私は伊勢君を愛してる。こんなに人を好きになったのは初めてなの。どれぐらい好きかと聞かれれば──それは、死ぬほど愛してるといっても過言じゃないの」


「愛」なんて言葉、中1で使うやつなんて、ふつうはいない。

童顔少女らしからぬ、まさにド直球な告白であった。


「な……!?」


あまりにも素直な告白に、さすがの新菜も反論できないようだ。


「お、長内さん、ありがとう。気持ちはとてもうれしいんだけど、実は今、とっても複雑な状況で……。とにかく今は僕、誰とも付き合う気持ちになれないんだ」


「だったら──」


長内さんは新菜の脇をすり抜けて、いきなり僕のところに駆け寄ってきた。

そして、そっと耳打ちした。


「──伊勢君がわざとテニスをヘタに見せかけてること、みんなにバラしてもいいの?」


いきなり脅迫してきた!


「そんなこといわれても……」


「これだけいってもダメなの? 私、伊勢君のこと、こんなに愛してるのに!」


「ごめん。今は誰とも……」


「だったら──」


今度はなんだ!?


「──死んでやる!」


「「えっ!?」」


僕と新菜が制止するひまもなく、長内さんは階段を駆けのぼっていった。


「ちょっとカイト、どうするの!? あの子、飛び降りる気なんじゃ!?」


「僕が追いかける! 新菜は誰か先生を……いや、琴音先生を呼んできて!」


「わわわ、わかった!」


♪∽♪∝♪——————♪∽♪∝♪


『テニスなんかにゃ興味ない!』を

お読みいただいてありがとうございます。


この物語は毎日更新していき、

第50話でいったん完結する予定です。


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