【第14話】身長って大事ですか?

「はぁぁぁ………………」


翌日、休み時間の教室には、いつになく深いため息をついている三太郎がいた。


「朝からどうしたんだ?」


「カイト、昨日の琴音先生の話、覚えてるか? 思春期がくるのが早いと、背が伸びないって」


「ああ、覚えてるけど、あくまでもそういう傾向があるというだけで、個人差があるって先生はいってただろ?」


「そうだけどよォ、もしもこのままピタッと背が止まったら、いやだなあ……」


「そんなわけないし。それに、三太郎は平均より大きいんだから、もしも身長が止まるのが多少早かったとしても、問題ないんじゃないの?」


「問題オオアリクイだよ! 男は少なくとも180センチ、できれば185……あわよくば190ぐらいほしいよなあ」


「そう? そんなに大きくなって、どんなメリットがあるの?(オオアリクイはスルー)」


「女にモテるだろ」


「他には?」


「以上だ」


「ただ、女の子にモテるために大きくなりたいの?」


「『ただ』とはなんだよ! 女子にモテたいのは、男子として当然の欲求だろうが!」


「まあ、わからなくもないけど……」


「バッカみたい」


そろそろ彼女がツッコんでくると思っていた。


「うるせーよ新菜! 男同士の話に入ってくるなよ!」


「ツッコまずにはいられないわよ。身長なんて、どーでもいいのに」


「絶対だな!? じゃあ、もしもここに、顔は同じで、身長180センチのやつと、身長30センチのやつがいたら、どっちを選ぶんだよ?」


「極端すぎるでしょ! 30センチって、どこのコロボックルよ!」


「おまえが『身長なんてどうでもいい』っていったんだろ!」


「ほんと、バッカみたい。体ばっかり大人になって、頭の中は小学生ね」


「うるせーよ! おいカイト、おまえも、なんとかいってくれよ!」


ごめん、三太郎。

今の新菜の意見には、僕も同意せざるをえない。

しかたがない、少し話題を変えるか……。


「新菜は、男子のどんなところに魅力を感じるの?」


「そりゃあもちろん、ハートよ。やさしいけれど、いざというときに頼りになる、そういう内面が大切なのよ。あとは、結婚したあとに家族を支えられるぐらいの経済力ね」


「結婚!? 僕たちまだ中1なのに、新菜はもう結婚のことまで考えてるの?」


「まあ、ちょっとはね。カイトはやさしいし、いざというとき案外頼りになるし、けっこう頭もいいから将来性もありそうだし、そういう意味では合格ね」


「あ……それは……どうも」


「ちょっとカイト! なによそれ!?」


「えっ!? 僕、なんか変なこといった?」


「今のは遠回しなプロポーズでしょ! 『あ、それはどうも』って、どんな返事よ!」


「あ……えっ、そうなの!? ごめん」


「もう、これだから精通も来てない男は! 早く思春期になってよね!」


「そんなこといわれても……。三太郎、ヘルプミー!」


三太郎はちょっと考えて、こういった。


「新菜、もしかしておまえ、将来カイトと結婚したいとか?」


「そうよ。悪い?」


「もしもカイトが、そもそも結婚に興味なかったらどうする?」


「えっ!? そうなのカイト?」


「いや……結婚のことなんて、まだ考えたこともないよ」


「そうなの!?」


すると三太郎は得意げにいった。


「思春期前の男なんて、みーんな、そんなもんだよ。まあ、すでに思春期に突入した俺だって、結婚なんて興味ないけどな」


「ハア!? なんでよ!?」


「たった1人の女に一生しばられるなんてイヤだよ。子どもができようもんなら、奥さんはしばらく働けなくなって収入は半分になるし、おまけに育児にもカネがかかるだろ。自分が稼いだカネぐらい、自分だけのために使いたいぜ。結婚なんてコスパが悪すぎだよ」


珍しく、三太郎の説にも一理あるような気がする。

だが、もちろん新菜は引き下がらない。


「じゃあ三太郎は、ずっと1人で生きていくのね?」


「そうはいってないよ。恋人はほしいよ。でも、結婚する必要はないだろ」


「恋人はほしいけど結婚はしない? 恋人っていうのは将来、結婚する可能性がある相手のことでしょ。結婚しないなら、ただの友だちでいいじゃない」


「ただの友だちじゃ、エッチできないだろ!」


「サイテー! 三太郎サイテー! 女をただのエッチする相手としか見てないの?」


「そうはいってないだろ!」


「なによ、三太郎なんて結局、自分のことしか考えてないじゃない!」


「独身なんだから、自分のことだけ考えても、べつに問題ないだろ! 俺はいろんな女の子と付き合って遊びたいし、モテるために身長がデカくなりたいの!」


「うわ。三太郎、やっぱサイテー」


「うるせーよブス!」


「なんですって!?」


このまま放っておくと、なんだか泥沼にはまっていきそうだ。


「2人ともストップ! 結婚した両親から生まれてきた僕がいうのも変だけど、結婚って確かにコスパが悪いかもしれない。実際、日本では未婚率が上がってるでしょ。でも、結婚しないと子どもは生まれないわけだから、そうなると、いつか人類は滅亡しちゃうわけで……」


「じゃあ、カイトは結婚肯定派なのね?」

「いや、今のは完全に否定派だろ!」


「え……いや、わからないんだ」


「なによそれ!」

「はっきりしろよ!」


「えっと……琴音先生に聞いてみよう」


♪∽♪∝♪——————♪∽♪∝♪


『テニスなんかにゃ興味ない!』を

お読みいただいてありがとうございます。


この物語は毎日更新していき、

第50話でいったん完結する予定です。


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