【第8話】付き合ってくれますか?
翌日、僕はいつものように三太郎と一緒に登校した。
「しかし、カイト。あの阿久野先輩が急にテニス部を辞めるなんて、いったい何があったんだ?」
「さあね……。とにかく、これで一件落着だね」
「じゃあカイトはテニス部、辞めるのか?」
「そうだね。阿久野先輩がいなくなった今、もうテニス部にいる理由はないなあ。もともとテニスなんて興味ないし」
「琴音先生と一緒にテニスできるなんて、うらやましい環境なのに、もったいねえな……。あ、俺、今日は先に行くわ」
「急に、なんだよ三太郎?」
「あれを見ろよ──」
いわれて前方を見ると、新菜が肩を落とし、トボトボと歩いていた。
遠目にも、落ち込んでいるのがわかるぐらいのトボトボ具合だ。
「──ああいうの苦手なんだ。俺、新菜が相手だと、つい心にもないことをいっちまいそうだから、あらかじめ回避しとくわ。おまえに任せた!」
そういって、三太郎は小走りで行ってしまった。
あいつなりのやさしさなのだろう。
「おはよう、新菜」
「……」
「どうしたの?」
「……」
よく見ると、新菜の目は真っ赤だった。
あきらかに一晩中、泣き腫らした顔だ。
「大丈夫?」
「カイト……」
「ん?」
いきなり新菜が抱きついてきた。
そして、僕の胸の中で号泣した。
「うええええええーーーーーん」
聞けば、デートの待ち合わせ場所に来ない阿久野先輩に連絡してみたところ、ケガで入院したという。
お見舞いに行くというと、「絶対に来るな! おまえのせいでこうなったんだ!」という返事がきたそうだ。
さもあらん。
阿久野先輩にしてみれば、腫れ上がった股間を手当てしてもらっているところを後輩の女子に見られたくなかったのだろう。
「二度と私の顔を見たくないって。私、何がなんだか……」
「ねえ新菜。あの阿久野って先輩、実はいろいろ悪い噂があるって知ってる?」
「知ってるわ。あれだけカッコイイんだもん。ライバルが多いことぐらい知ってたわよ」
「知ってたのか。だったらなんで……」
「ライバルが何人いようが、私があの人の『一番』になればいいでしょ!」
「すごい自信だね……」
「でも、自信なくしちゃった。なんで私、嫌われたんだろ」
僕のせいだ。
はたして、これでよかったのだろうか。
大勢の女の子を引っかけて、セックスしては、捨てる。
そんな阿久野を許せなかった。
だけど、阿久野のことを好きな女の子にしてみれば、そんな悪い男でも、好きな相手であることに変わりはない。
「新菜は今でも、阿久野先輩のことを好きなのか?」
そうたずねると、新菜は首を横に振った。
「……ううん。あんなにはっきり振られて、一晩泣いたら目が覚めたわ」
「さすが、新菜は強いね」
「そうよ。でも、男って本当にわけがわからない生きものね。いろんな女に手を出して、やりまくって、むなしくならないのかしら?」
「いや……どうなんだろ」
「ごめん、聞く相手が間違ってた。カイトがそんなにモテるわけないもんね」
「うるさいな。どうせ僕はモテないよ」
「……ふふっ」
「よかった。やっと笑ったね」
そういうと、新菜が急に黙って、じっと僕の目を見つめた。
「なんだよ?」
「ううん、なんでも」
*
自分ではいいことをしたつもりだった。
新菜を守ってあげたつもりだった。
でも、それは間違いだったのかもしれない。
大きなお世話だったのかもしれない。
そんなことばかり考えていて。
その日の授業は、まったく集中できなかった。
1日の授業がすべて終わり、帰宅準備をしていた僕に、新菜が紙きれを渡してきた。
「何?」
「1人で読んでね。先にテニスコートに行ってるね」
「いや……僕はもう、部活は……」
笑顔の新菜が、スキップで教室を出ていく。
今朝はあんなに落ち込んでいたくせに。
女ってわからない。
誰にも見られないように、紙きれを開く。
次の瞬間、僕は自分の目を疑った。
『カイトのこと好きかも』
♪∽♪∝♪——————♪∽♪∝♪
『テニスなんかにゃ興味ない!』を
お読みいただいてありがとうございます。
この物語は毎日更新していき、
第50話でいったん完結する予定です。
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