【第7話】僕は彼女の処女を守れますか?
「先生、僕……どうしたら……?」
「彼とテニスの試合をしてください。お友だちの処女を守るために」
新菜の処女だけではない。
この勝負には、琴音先生のクビとエッチもかかっている。
「え……。でも僕、テニスの経験なんて……」
「テニスのルールは、私が試合中に教えます。阿久野さん、それでいいですか?」
「べつに俺は構わねーけど、そいつルールも知らないのかよ。それでどうして、俺に勝てると思ったのかね。まあ、おかげで俺は先生と一発デキるわけだから、どーでもいいけどな」
*
今日は部活が休みなので、テニスコートはがらんとしていた。
ここにいるのは僕と琴音先生、そして阿久野先輩の3人だけだ。
阿久野先輩は腕時計をちらりと見て、いった。
「先生、かわいい1年女子が俺を待ってる。試合は4ゲーム先取でいいよな?」
「ええ、そうしましょう。サーブは阿久野さん、あなたからお願いします」
「いいのか? 4ゲーム先取で俺にサーブ権を与えたら、ばん回する余地なんかないぜ」
すると琴音先生は僕に耳打ちした。
「テニス経験がないということは、たぶんサーブを打ったことも、どこにサーブを打ったらいいのかもわからないでしょう。ですから、カイトさん。最初のゲームは捨てて、彼のプレーをよく見て覚えてください」
「はあ……。覚えられるかな……」
「あなたなら、できるはず。カイトさんは『タレンテッド』でしょう?」
「! どうしてそれを!? 誰にもいったことないのに……」
「1年生の実力チェックをしたとき、カイトさんの動きを見て、すぐにわかりました。あなたと同じ才能をもった人を知っているので」
「そうだったんですか。ちょっと見ただけでわかるなんて、先生すごいですね。でも、いくらタレンテッドでも、ルールもわからないのに勝てるものなんでしょうか」
「テニスのルールは簡単です。相手が返せなくなるまで、ひたすらボールを打ち返す。以上です」
「へーえ。テニスって意外と泥くさいスポーツなんですね」
先生にいわれた通り、僕は1ゲーム目、ひたすら阿久野先輩の動きに注視した。
まずボールを上に投げて、ラケットをかついで、ボールを打ちおろす。
その際、ボールはネットを超えて、斜め手前の長方形の中にバウンドするようにする。
阿久野先輩の一連の動作を目に焼きつけようとしていたら、先輩があきれたようにいった。
「おい、何をボケッと見てるんだ? なぜ打ち返そうとしない? 見てるだけじゃ試合にならないぞ」
「大丈夫です……たぶん」
2ゲーム目は、僕がサーブを打つ番だ。
すでに、サーブの打ち方と、どこに打てばいいかは理解した。
テニスとは、相手が返せなくなるまで、ひたすらボールを打ち返すスポーツ──だったな。
つまり、相手がボールを打ち返せなければ勝ちってことか。
ならば、狙いは1つだ。
僕はボールを投げ上げ、ラケットで強打した。
サーブっていうのは、こんな感じだったな。
ヴァコッ。
乾いた音とともにボールは勢いよくネットを超え、地面にバウンド。
力いっぱいに打ったので、バウンド後も、ボールはそのまま高速で突き進んだ。
まっすぐ、阿久野先輩の股間を目がけて。
ばんっ。
何かが破裂したみたいな音。
テニスボールというのは案外硬い。
硬式テニスというぐらいだから、あたりまえか。
阿久野先輩はラケットを落とし、股間を押さえて倒れ込んだ。
「ぐええええっ……」
「先輩、大丈夫ですか?」
「いてえっ……くうぅっ……」
「試合、続けられますか?」
「それどころ……じゃ……ねえ!」
「じゃあ、僕の勝ちですね?」
「それどころじゃ……救急車! 救急車を呼べ!」
「いいですけど、約束は守ってくださいね?」
「わかった! テニス部なんか今すぐやめてやる! 俺の負けだ! た……頼むっ……早く! 早く救急車を呼んでくれ!」
「わかりました」
股間を押さえたまま、阿久野先輩は微動だにしない。
およそ10分ほどして、ようやく救急車が到着した。
阿久野先輩が琴音先生の同乗を拒否したので、僕と琴音先生は、サイレンを鳴らしながら遠ざかる救急車を2人で見送ったのだった。
タレンテッド──。
僕自身も詳しくは知らないのだが、運動能力や創造能力において、飛び抜けた才能をもつ人間のことらしい。
平均よりも著しく知的能力の高い人間を「ギフテッド」と呼ぶことがあるが、そのスポーツ・芸術部門といったところなのだろうか。
タレンテッドとギフテッドは、どちらも「才能がある」という意味をもつ言葉だが、微妙な違いがあるらしい。
タレンテッドとは、たとえばスポーツ、音楽、絵画、文学など、さまざまな分野で優れた能力をもつ人々のことを指すという。
僕の場合は、たまたまスポーツだったというわけだ。
一方、ギフテッドのほうは、主に知的な能力や才能に焦点を当てた言葉で、非凡な知性や高い学習能力をもっている人を指すらしい。具体的には、非常に高いIQをもっていて、創造的な思考能力、問題解決能力などを備えているらしい。
ただし、タレンテッドやギフテッドの中には、その能力とは裏腹に、その他の能力──たとえばコミュニケーションが苦手だったりして、人によっては発達障害と診断されるケースもある。
いいところばかりではないのだ。
僕だって、タレンテッドでよかったと思ったことなんて、一度もない。
だって、どんなスポーツも、僕にとっては簡単すぎて、つまらないのだ。
だけど、こんなことをいうと絶対、人に嫌われてしまう。
そう思った僕は、幼いころからこの力を内緒にしてきた。
体育の授業でも、目立たないように、わざと失敗したりして。
「琴音先生……。こんな力でも、たまには役に立つことがあるんですね」
「ええ、カイトさん。見事だった。あなたは自分の力で、お友だちの処女を守ったのです」
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『テニスなんかにゃ興味ない!』を
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この物語は毎日更新していき、
第50話でいったん完結する予定です。
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