【第6話】未成年のセックスは犯罪ですか?

琴音先生に続いて、僕は体育館にある保健体育教師専用の職員室に入った。


確か、保健体育の教師は他にも何人かいたはずだが、今は琴音先生と僕の2人きりだった。


琴音先生は机の引き出しをまさぐって、奥のほうから小さな正方形の小袋を取り出した。


「この中にコンドームが入っています。開封するときはコンドームを傷つけないように気をつけて」


先生がピリッと小袋を破ると、中から小さなゴム風船みたいなものが出てきた。


「それがコンドームですか?」


「そうです。この先端にある、精液をためる部分をつまんで、空気を抜いてからオチンチンにかぶせます。その際、オチンチンは大きく勃起ぼっきした状態のときに装着するようにしてください。では、実際にやってみましょう」


「やりませんよ! やるわけないでしょ!」


「誤解しないでください。指をオチンチンに見立てて練習するだけですよ。──はい、このようになります」


琴音先生は自分の親指にコンドームを装着した。


「先生、僕まだ精通もないんで、それが必要になるのは、たぶんかなり先の話です」


「えっ……!? そうでしたか。でも、いずれは必要になる知識ですから、覚えておいて損はないでしょう」


「はあ。それより、精通ってどんな感じなんでしょうか?」


「私は女性ですから、本当のところはわかりませんが、きっと気持ちがいいのだと思います」


「どんなふうに?」


「さすがにそこまでは……わかりません。ごめんなさい」


「いや、謝らなくていいですよ先生。いずれわかることだし」


「そうですね。初めての精通を楽しみにしておいてください。そして、もしよかったら……どんな感じだったか、こっそり先生に教えていただけますか?」


「えっ!? まあ……いいですけど」


「ありがとうございます。では、先生も楽しみにしておきます。ところで、さっきの男子トイレでの話ですが、いったい彼と何があったんですか? テニス部2年生の……阿久野さん、でしたっけ?」


琴音先生は、真剣なまなざしで僕を見つめた。

その瞳には、もしかしたら先生なら何とかしてくれるかもしれない、と思える強さがあった。


「まだ確証がないので、誰にもいわないでもらえますか?」


「もちろんです」


「実は、阿久野先輩がテニス部女子をとっかえひっかえ……その、遊んでいるというウワサがあって、そのことを阿久野先輩本人にたずねたんです」


「本人は、なんと?」


「複数の女子と付き合っていることは認めましたが、『恋愛は自由だろう』って」


「あくまでも、同意の上だと主張しているわけですね」


「はい。しかも、コンドームも着けているから問題ないだろうって」


「その点はさっき説明したように、避妊が失敗するリスクを考えると、未成年のセックスはあまり勧められません。しかしながら彼がいうように、お互いが同意した上でのセックスであれば、法的に問題はありません。日本の法律では、性的同意年齢は男女ともに13歳ですから」


「じゃあ……セックスだけして捨てられたとしても、その女子は何も文句をいえないんですか?」


「残念ながら、そういうことになります。もしかしてカイトさん、被害者の女子の中に、知り合いが?」


「……はい。あ、いえ。まだ阿久野先輩から告白されたばかりらしいですが」


「そうでしたか。じゃあ、急がないといけない。いったん先生に任せてください」


   *


翌日の放課後、僕は再び琴音先生に呼ばれて職員室を訪れた。


「昨晩、テニス部の女子に片っぱしから電話をしました。その結果、阿久野さんと性交渉をもった子は、少なくとも7人以上いることがわかりました。電話に出なかった子や、話の途中で口を閉ざしてしまった子もいるので、もしかしたら7人というのは氷山の一角かもしれません」


「でも、先生。未成年同士でセックスをすること自体は、罪にならないんでしょう?」


「ええ。だからといって、体を目当てに女性をとっかえひっかえ……なんて、先生は許せません」


「じゃあ、どうするんですか?」


「先生に考えがあります。阿久野さんが、もうすぐここに来ることになっています」


「えっ!?」


驚いたのもつかの間、本当に阿久野先輩が、ハンバーガーをかじりながらやってきた。

話し合ってなんとかなるような相手とも思えないが、先生はどうするつもりなのだろうか。


「先生、なんの用だよ? 今日は部活がないから、デートの約束してんだけど」


「あなたにセックスを強要されて捨てられたという女子が何人かいるんですが、心当たりはありますか?」


先生に問われて、阿久野先輩はすぐに視線を僕に移した。


「そうか……おまえ、1年の伊勢といったか。きさまがチクったんだな。だが、恋愛するのは自由のはずだ。恋人とセックスして、何が悪い?」


やはり法律に違反していない以上、阿久野先輩の主張に分があるように思える。

しかし、琴音先生はひるまずに答えた。


「その通り。それ自体は罪にはなりません。でも、テニス部の顧問として、そして保健体育の教師として、女子生徒の体と心を踏みにじる人間を放置するわけにはいかない」


いつものように、口調こそ冷静そのものだが、琴音先生の言葉には、いつになく熱がこもっている。


「どうするってんだ? 退学か? 退部か? あいにく俺は、法的には何も悪いことをしていないんだ。どんな処分もできないはずだ。残念だったな」


「その通りね。そこであなたには──試合をしてもらいます」


「試合?」


「彼とテニスの試合をして、もしも負けたら退部してもらいます」


「彼──って、その初心者の1年坊主のことかよ。俺はこれでもレギュラーなんだぜ。負けるわけないだろ」


えっ!?

「彼」って、僕のこと?

いきなり話を振られた僕は、ただ目をぱちくりするだけだった。


「じゃあ、試合をやってもらえるわね?」


「ちょっと待てよ。確かに初心者の1年なんかに負けたら恥ずかしくてテニス部にはいられないが、俺が勝ったときは、どうしてくれるんだよ? 先生、自分のクビを賭けるぐらいの覚悟はあるんだろうな?」


「ええ、わかりました」


ええっ!?


「いや……あんたが辞めるだけじゃ面白くないな。俺と一発セックスしてから辞めろ。その条件なら、勝負を受けてやる」


ちょ……えっ!?

僕が阿久野先輩に負けたら、琴音先生がこいつとセックス!?

さすがに、これには僕も思わず声を発してしまった。


「先生は関係ないじゃないですか! っていうか、なんで僕が先輩とテニスで戦う話になってるんですか! もう、わけがわからないよ!」


僕は頭を抱えた。

すると、阿久野先輩はニヤリと笑いながらハンバーガーをかじった。


「俺はどっちでもいいが、やるのかやらないのか、早く決めてくれ。今日は1年の女子とセックスする予定なんだ。もちろん同意した上で、だけどな」


「1年女子って……新菜……浜尾新菜のことですか?」


「ああ、確かそんな名前だったな」


「!」


動揺する俺の気持ちを知ってか知らずか、琴音先生は冷静に答えた。


「私はその条件で構いません」


♪∽♪∝♪——————♪∽♪∝♪


『テニスなんかにゃ興味ない!』を

お読みいただいてありがとうございます。


この物語は毎日更新していき、

第50話でいったん完結する予定です。


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