【第3話】コンドームって何ですか?

登校2日目。

通学路にあるコンビニの前で、三太郎が待っていた。


「三太郎、珍しく早いね。いつも僕が待たされるのに」


「学校に行けば琴音先生に会えると思うと、なんかウキウキしてくるんだよ」


「それって完全に恋だよね。10歳も年上で、しかも教師となると、ターゲットとしてはかなりの無理目じゃない? しかも、先生に会えるのは、週に一度の保健体育の座学のときだけだし……」


「残念でした! もうテニス部に入部届を出したから、うまくいけば、練習がある火・木・土に、毎週会えてしまうのだ!」


「ああ、そっか。そういえば昨日、あのあと新菜を追いかけて、一緒に琴音先生のところに行ってたね。……だけど、『うまくいけば』って、どういうこと?」


「それがなあ……。テニス部には今、男子の入部希望者が殺到してるらしいんだ。どうやら抽選になるらしい」


「部活に入るのに抽選!? テニス部って、毎年そんなに人気あるの?」


「今年は異例だって。たぶんみんな、琴音先生目当ての連中だよ。まったくスケベな男が多くて困るぜ」


「三太郎がそれをいう!?」


──などと、歩きながら話していたら、前を歩いていた新菜に追いついてしまった。


「おはよう、新菜」


「あらカイト、おはよう。クラスの男子から聞いたんだけど、三太郎がテニス部に入りたいのって、顧問の先生が目当てなんですって?」


「げっ、誰がしゃべったんだ!?」


「三太郎って、本当にスケベで下品で汚らわしい男ね。サイッテー!」


「うるせえ! テニス部に入ったら、こんな女も一緒ってのはイヤだけど、琴音先生に会うためなら、まあ仕方ねーか!」


「ああ神さま、この男が抽選でハズれますように……!」


「うるせえんだよ、この性格ブス!」


「何よ!」


そろそろ仲裁に入っておくか。


「2人とも、もうそのぐらいにしときなよ。っていうか、三太郎はラケットとか持ってるの?」


「モチのロン! 母ちゃんのお古をゲットしてある!」


「おお、準備バンタンだね」


そのとき、急に新菜が遠くを見て、ぱっと瞳を輝かせた。


「あっ、先輩だ!」


新菜はそのまま、正門のそばにいる男子生徒に向かって一直線に駆けていった。


「ちぇっ、せめて俺たちに『先に行くね』とか、ないのかよ」


「まあまあ。三太郎だって、もしもあそこに琴音先生がいたら、同じことするだろ」


「え……。あ、まあ……確かに」


「遠目にも、かなりのイケメンだね、あの阿久野さんっていう先輩」


「ホント、ムカつくぐらいにカッコいいぜ」


そんなことを話していたら、見知らぬ女子生徒が「聞き捨てならない言葉」をボソッとつぶやきながら、僕たちの前を足早に追い抜いていった。


「なあ三太郎、今の人、なんていった?」


「俺には『死ねばいいのに』って聞こえた気がするけど、まさかな」


「まさか……ね」


実は、僕にもそう聞こえた。


ひょっとして、新菜と同じように、阿久野先輩に好意をもっている子だろうか。

だとしたら、今の「死ねばいいのに」は、嫉妬心しっとしんから新菜に向けられた言葉ということになる。


僕の表情から、そんな考えを読みとったのか、三太郎がいった。


「カイト、気になるのか?」


「いや……そういうわけじゃ……」


「気になるんだな。俺に任せとけ」


「任せるって、どうするんだ?」


「今の子に話を聞いてくる!」


「えっ!?」


「カイトは先に教室に行っててくれ! じゃあな!」


そういって、三太郎はさっきの女子生徒のあとを追って走った。

なんという行動力。

スケベなお調子者だが、こういうときの三太郎は、誰よりも頼りになる機動戦士だ。


   *


まもなくホームルームが始まるという時間ぎりぎりに、三太郎が息を切らせながら教室に入ってきた。


「はあはあはあ……。ぎりぎりセーフ!」


「三太郎、どうだった?」


「かなりヤバいやつみたいだぞ、あの阿久野って先輩」


「ヤバいって?」


「さっきの女子は2年生だった。1年生のときテニス部に入っていたそうなんだけど、彼女や彼女の周りの女子は全員、あいつに食われて捨てられたらしい」


「食われたって、どういうこと?」


「わかんないのかよカイト! つまり、やられたってことだよ」


「やられたって何を?」


「いったい、おまえの性的知識はどうなってんだよ! セックスを強要されたんだよ!」


「セックス!?」


何を隠そう、僕はセックスのこともよくわかっていない。

どうやら男と女が裸でエッチなことをして子どもを作るらしい……ということまでは理解しているつもりだが、それ以上のことは知らない。


だが、それで意味は十分に理解できた。

テニス部の女子の何人かが、あの阿久野というやつにエッチなことを強要されたということか。


「そうだ。やっと理解したか」


「じゃあ、みんな妊娠しちゃったのか!?」


「そんなわけねーだろ。ちゃんとコンドームは着けてたらしいし」


「コンドームって何?」


「おまえはそんなことも!? ……ふう。コンドームはチンチンに被せて使う避妊具だ」


「つまり、それを使えば女の子は妊娠しないわけ?」


「そうだが、だからって無理やり女を食いまくっていいわけないだろ。もしかしたら、あの阿久野ってやつ、とんでもない極悪人かもしれん」


「だとしたら……新菜が危ない! 他に、阿久野先輩に関する情報は?」


「中学生のくせに、タバコや酒もやるらしい」


「けっこうな不良だね」


「好きな食べ物はハンバーガー。飲み物はコーヒーとオレンジジュース。コーヒーは1日2リットルは飲むらしい」


「その情報はどうでもいいや」


「で、どうする? 新菜にいうか?」


窓際の一番うしろの席に座っている新菜は、窓の外の景色をうっとりと眺めている。


「……ダメだね。目がハートになってる。僕たちがいっても絶対、信じないよ」


「俺もそう思う」


「……決めたよ。僕もテニス部に入る」


「カイトが? 入ってどうする気だ?」


「一緒に新菜を守ろう。そして同時に、阿久野の悪事を暴く」


「そう、うまくいくか?」


「やるしかない。三太郎も協力してくれるよね?」


「まあ、新菜がどうなろうと、俺は知ったこっちゃないが、カイトに頼まれたら、やるしかないな」


♪∽♪∝♪——————♪∽♪∝♪


『テニスなんかにゃ興味ない!』を

お読みいただいてありがとうございます。


この物語は毎日更新していき、

第50話でいったん完結する予定です。


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