再会 3/3
「クラウの子を撫で繰り回せない!!」
「…ティナ、自分の容姿を思い出してくださいまし。今のティナの外見は、うちの子たちと同年代に見えるのです。同年代の可憐な少女から親愛の情を寄せられたら、あの子たちは確実にティナに心を奪われてしまいますよ?」
「……ど、ど、どう接したらいいの? 私、クラウの子に会うのを楽しみにしてたのに…」
「めちゃくちゃ動揺してますね。確かにティナの容姿は整っていて仕草も可愛らしいですし、ティナは子どもに対して無条件に親愛の情を寄せてしまう。特にクラウの子となれば、溺愛するでしょうね。非常に危険です」
「アルまで敵に回った!?」
「やはりあの子たちにティナを会わせるのは、もっと先にしましょう。ティナが自制出来るとは思えませんわ」
「ティナは素で人を惹き付けてしまうようですから、何をどう自制していいのか分からないと思いますよ。ここはやはり、延期が正解かと」
「ねえ、待って。お願いだから。すぐ近くにクラウの子がいるのに、会えないなんてひどすぎるよ」
「今のティナの気持ちの何倍もの感情を、ティナに対してクラウの子が持ってしまったら、どうする気ですか?」
「…可愛がりまくって撫で繰り回す?」
「はい失格です。ティナはクラウの子に会ってはいけません」
「ひどい! 横暴だ!!」
「ティナ、きちんと考えて答えてください。もしクラウの子たちがティナに告白してきたら、ティナはどうする気ですか?」
「…さすがにそれは断るよ。私がクラウの子に持ってる感情は、断じて恋愛感情じゃないから」
「その時相手の子どもは、どれほど傷付くでしょうね?」
「いや待って。二人ってまだ五歳と三歳なんでしょ。そもそも恋愛感情なんて持たないって」
「確かに恋愛という感情では無いでしょう。しかし好きという感情ではあるはずです。幼児期に芽生えた感情は、その後の人格形成に多大な影響を与えるはずですよね? 例えばティナが、理不尽な人間を許せないように」
「くっ……。私を冷静にさせるために、わざとトラウマつついたでしょ。分かったわよ。クラウの子たちに心の傷を付けないために、会うのは我慢するよ。全く納得は出来ないけどね」
「クラウ、ひょっとしたらこれもティナの自己評価が低いからなのでしょうか? 全然納得してませんよ、この外見詐欺二十歳」
「そうでしょうね。シュタインベルクでも、子どもだけでなく大人まで無自覚に魅了しておいて、それを指摘されても信じようとしませんでしたから。ティナがシュタインベルクを離れてから、うつろな目で呆ける住民が何人もいたというのにです」
「なんかさっきから、アルの当たりが強い。外見詐欺二十歳はひどくない?」
「ティナ、お願いですから客観的に判断してくださいまし。大人の女性が幼女に変身して男児に抱き着いたり撫で廻したりして過度なスキンシップをする。男児に悪影響はございませんの?」
「…………ごめんなさい、反省して自重します」
「ではもうひとつ。大人の女性がとても可愛らしい幼女に変身して、幼女特有の言動を執る。それを見た大人やお年寄りたちは、幼女に対して親愛の情を抱く。これはどうですの?」
「…………だから外見詐欺二十歳か。その感情は本当の幼女に向けられるべきもので、それを私が受けるのは一種の詐欺行為だね。だけど少しだけ反論させて。その女性は変身したんじゃなくて、理不尽を撥ね退ける力を欲した結果、身体の成長が鈍化してしまっただけ。しかも大怪我で、八年間も寝てたの」
「……大いに勘案すべき事情があると判断しますわ」
「ごめんね。多分私のこの言動は、長い時間を掛けないと治らないと思う。私は五歳まで、同年代の子どもも、味方すらたったひとりしかいない修道院で過ごした。しかもたったひとりの味方にさえ短時間しか会えず、四歳の時にその人を殺されてしまった。私が子どもや親しくしてくれる人を過剰に求めちゃうのは、多分修道院時代のことがトラウマになってるんだと思う。理不尽なことが大嫌いで撥ね退ける力を欲したのも、その大切な人を守れず、理不尽に殺されてしまったから。多分私は愛情に飢えちゃってるんだ。今は愛情を注いでくれるみんながいるのに、それでも無意識に愛情を求めてる。まいったなぁ…。これって治せるの?」
「…伴侶を求めてみてはどうだろうか?」
「クラウの伴侶としての、幸せ絶頂期らしい言葉でうれしいよ。だけど私は持ってる力が大きすぎるから、家族は望んじゃいけないと思うんだ」
「……その気持ち、母親としてよく分かる気がします。もし我が子を人質に悪事を強要されたら、わたくしは領主としての判断が出来るかどうか分かりませんもの。ティナはわたくしより、よほど他者への愛情が深い。そのティナが大切な家族を人質にされたら、家族を思うがゆえに言いなりになることが怖いのですよね。ティナは自身が持つ力の強さを分かっているから」
「うん。たとえば私に子どもが出来たら、私はその子を過剰なまでに守ろうとする。だけどその子の友達は? その家族は? 私は多分、我が子の心まで守り切ることは出来ない。その時私が振るってしまう力がどれほどになるかと思うと、怖くて仕方が無いの。実際私は、クラウが暗殺者を仕向けられた時に、暗殺を依頼したバンハイムの国王と宰相を感情のままに殺しちゃってる。友達という立場のクラウにさえそうだったんだよ。それが我が子となったら…」
「恐れていたのはそちらでしたか。怒りの感情に突き動かされて、力を使ってしまうことの方が怖いのですね」
「安易な事を言ってしまって申し訳ない。ティナ様の苦悩を、全く理解出来ていなかった」
「いいえ、アウレールの言葉は当たってるのよ。私の夢は、旦那様と子どもがいるごくごく普通の一般的な家庭なの。でも私は、理不尽を跳ね返す力を追い求めてしまった。だからその夢には、もう届かない」
「ティナ、あなたはだから…」
「うん。民を助けるのは私が愛情に飢えてるからってこともあるけど、私が求めた夢を、せめて民のみんなに味わって欲しいから」
「…私は最初期に、とても大きな過ちを犯していたのですね。ティナを助けた後、すぐに別れるべきでした」
「間違ってないよ。アルと一緒にいようと思ったのは私の意思だし、アルが私といてくれたから、私はクラウたちを助けられた。これでもアルには、ものすごく感謝してるんだよ」
「僕からもアルフレート様とティナ様に感謝を。お二人のおかげで、私たち家族は幸せいっぱいです。ランダンの民の生活も格段に向上し、この前里帰りしたら、町に笑顔が溢れていました。ティナ様の夢のおかげで、民は幸せをかみしめていますよ」
「シュタインベルクもですわね。ユーリアとカーヤも結婚して、今は母親です。アルノルトも元気で、今は孫が可愛くて仕方無いようですわ。民の生活など子爵領時代とは比べ物にならない豊かさで、笑顔が溢れかえっていますよ。ティナ、アルさん、本当にありがとうございます」
「ティナ、私今、ものすごくうれしいのですが、なぜでしょう?」
「そんなの、この大陸のみんなを幸せに出来たからに決まってるじゃない。映像で見たけど、この大陸には幸せが溢れてた。今度は、他の大陸も幸せにしてみる?」
「いいですね。幸せをばら撒きに行きますか」
「よし、早速行先決めよう!」
「決めるのはいいですが、ティナはもうしばらく外出禁止ですよ」
「…そうだった」
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