再会 2/3

「八年も寝るからですわ」

「あぁ、うん。心配かけてごめんね」

「ほんとですわ、もう…」

「ごめんなさい。次からは無いようにします」

「絶対ですわよ!?」

「あ、はい。…なんか、前より圧が上がってない?」

「当たり前です。母ですから」

「うん、ほんと寝すぎちゃったね。アウレール殿下もお久しぶり。おっと、もうこの敬称はダメか。どうしようかな…」

「久しぶり。全快したみたいで良かったよ。ティナ様は妻の大恩人であり、シュタインベルクの大恩人、そしてランダンの大恩人でもあるんだ。しかも妖精王国に所属する人の中では最上位権限者だよ。僕は呼び捨ててもらわなきゃ」

「呼びすてはいいけど、大恩人多くない?」

「まだまだ足りないよ。ティナ様はいったいどれだけの人を助けたと思ってるんだい?」

「…助けた人の数を誇る気なんて無いよ?」

「ティナ様から見ればそうだろうけど、助けられた側は恩義を感じてはいけないのかい?」

「う。…なんか私が寝てる間に、アウレールがハルトムート殿下みたいなこと言うようになってる」

「兄も呼び捨てなきゃダメだよね。もう兄はティナ様の部下なんだから」

「…そうだった。でもさぁ、私って寝てただけでなんにも仕事してないよ? そんなのが上にいちゃっていいの?」

「ティナ様が一番上じゃなきゃダメなんだよ。今では大抵の国民がそう思ってるからね」

「え、マジ?」

「大マジですわよ。ねえ、アルフレート様」

「そうですね。ティナが直接関与したことだけでなく、この八年間はティナの政策を踏襲したことで大陸中の民の生活レベルが格段に上がっています。各地で活躍しているホーエンツォレルン一族がティナの政策のおかげだと公言していますから、今ではシスティーナ=ホーエンツォレルンの名を知らない者を探すのは難しいでしょう」

「ちょ、誰、そんなこと言っちゃってるの!?」

「ホーエンツォレルンの姓を持つ者、すべてです」

「……嘘だと言って。私は有名になんてなりたくないのに…」

「完全に手遅れですね」

「そんなぁ……」

「諦めた方がいいですわよ。でもティナの容姿はほとんど伝わっていませんから、出歩いても気付かれないと思いますわ。その分、気楽ではなくて?」

「…まあ、そうかも。でもさぁ、私は八年間寝てただけなのに有名になってるなんて、なんだか頑張った人たちの功績奪ってるみたいで納得がいかない」

「実働した者たちは、皆見合った報酬をいただいていますわ。その者たちは、ティナの真似をしてこの大陸を発展させたのですから、やはりティナの功績は大きいですわよ」

「う~ん…。私は単に、知ってただけなんだよ?」

「ティナしか知らなかったことをアルフレート様と協力して広めた結果、民は以前より幸せに暮らせるようになった。その恩恵を受けた側としては、ティナには誇って欲しい気持ちもあるのですよ?」

「ぐぬぬ、反論しづらくなってきたな」

「もっと言ってやってください。ティナは自分を過小評価しすぎなんです」

「その発言には賛同いたしますが、アルフレート様もですわよ。ご自身の力を揮って民を幸せにしただけでなく、わたくしの大切な親友を治療して助けてくださいました。しかもティナ不在の八年間も、ティナの代わりに妖精王国の外務卿まで勤めて、この大陸全てを妖精王国という幸せの国にしてしまった。ぜひとも誇っていただきたいですわ」

「そうだそうだ! アルはもっと誇らなきゃ」

「ティナもですわよ。ほんと、似た者同士なんですから…」

「二人して叱られてしまいましたよ、ティナ。やはり私たちは、少し反省すべきなのかもしれません」

「クラウに言われると、さすがに反省しないといけない気がする。アル、二人で反省しよう」

「反省ではなく誇ってくださいまし!」

「ははは、お二人はほんとに似た者同士だね。今やこの大陸は妖精大陸と呼ばれ、民は妖精の恩恵を受けて幸せに暮らしている。なのに立役者二人は、そのことを誇ろうとしないどころか、誇らなかったことを反省するって…。その人間性こそが、妖精との懸け橋になれた理由かもしれないな。この世界にお二人を遣わしていただいた神様に感謝を」

【アル、私と人間性が似てるって! なんだかすごくうれしい!】

【なぜでしょう。私は人ではないのに、ティナと似ていると言われてすごくうれしいです】

「わたくしも心から神様に感謝いたしますわ。お二人を遣わしてくださり、ありがとうございます」

「お? この流れは、私たちも神様に感謝すべきだね」

「ティナは神様に何を感謝する気ですの?」

「アルやクラウたちに会わせてくれたこと!」

「うぐっ! ……ティナ。わたくしたちの子どもに会う時、出来る限りその率直な物言いや仕草を避けてくださいまし」

「え、どうして? クラウの子たちなんだから、目いっぱい可愛がりたい!」

「…ティナはわたくしの子と結婚してはいただけませんよね?」

「ほへ? しないけど、何で?」

「ティナの率直な言動と容姿は、人をたらし込む麻薬のようなものです。耐性の無いわたくしの子どもたちを、中毒にさせないでくださいまし」

「なんでっ!?」

「ティナ様、僕からもお願いします。ティナ様は無自覚に人を惹き付けてしまうので、息子たちが片思いに苦しみます」

「クラウの子を撫で繰り回せない!!」

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