再会 1/3
医療ポットの住人となって寝る以外にすることのないティナは、八年分の出来事をアルから根掘り葉掘り聞いた。
ただ八年分とはいっても、リアルタイムで八年分を経験するわけではないので、二週間ほどで暇になって来た。
気になった出来事の録画があればレイヤー機能で再生してもらったりしたのだが、それでも一か月も経つと飽きが来る。
そんな頃、ホーエンツォレルン城の地下にあるティナ専用医療室に、デミ・ヒューマンが見舞いに来るようになった。
ティナは依然として医療ポットの住人だが、治療が進んで目も開けられるし、話すことも可能になっていた。
デミ・ヒューマンたちはこれまでに体験して楽しかったことをうれしそうに話すため、ティナ自身もうれしくなって療養生活を楽しく過ごせるようになった。
そんな生活を一か月ほど続け、ティナはやっとのことで医療ポットから出られるようになった。
もっとも、毎晩寝るのは医療ポットの中なのだが、それでも自由に動けるようになったティナは感動した。
まだ城からの外出許可は出ないものの、城の中を歩き回ってデミ・ヒューマンたちとちょっとずつ話をしていく。
以前は面倒がって浮きながら移動していた廊下や階段も、ルンルン気分でスキップしながら移動していた。
外見は五歳の幼女なので鼻歌交じりのスキップも可愛らしいのだが、この幼女、実年齢は現在二十歳。完全に外見詐欺である。
治療後の経過も順調なティナは、ホーエンツォレルン城でシュタインベルク夫妻の訪問を受けた。
クラウが妊娠安定期に入ったため、家族四人でティナに会いに来てくれたのだ。
現在のシュタインベルク家の家族構成は、アウレールとクラウの領主夫妻に、長男のクリストフ五歳と次男のレオンハルト三歳。あとお腹の子。
クリストフとレオンハルトは大人の会話に混ざってもつまらないだろうと、別室でデミ・ヒューマンが面倒を見ながら遊ばせている。
久し振りに会ったアウレールは少年から大人になって精悍さが出ていたが、ティナが驚いたのはクラウの容姿だった。
ティナが寝ている八年の間に、クラウは妖艶なお姉さんになっていた。
挨拶する間もなく、ティナはクラウに抱きしめられた。
ティナにとっては数か月ぶりの再会という感覚だが、クラウは八年以上ティナの覚醒を待っていたのだ。
しかもクラウはアルから『私の技術でも、助けられるかどうか分からない。たとえ助けられても障害が残るかもしれないし、治療に何年かかるかも分からない』と聞いていた。
五体満足で以前と同じように驚いた表情を隠さないティナを見たクラウは、領主としての体裁など吹き飛んでしまっていた。
ティナがいなければ、現在のクラウのはいなかっただろう。
たとえば奇跡的にインフルエンザから回復したとしても、追放された廃村で食糧難か魔獣の襲撃に遭い、いずれは命を落としていたはずだ。
共に追放された者たちが元気でいてくれる幸せ。
シュタインベルクの一族として領民を幸せに導ける充実感。
優しい伴侶を得て、共に歩める幸福。
子どもを得て、母として子どもに愛情を注げるよろこび。
子どもの成長を実感出来るありがたさ。
全てティナがいなければ実現しなかったものだ。
それほどのものを与えてくれたティナを失うかもしれない恐怖に、クラウは八年以上耐え続けたのだ。
ティナの顔を胸に埋め、頭に頬擦りしても仕方が無いだろう。
最初はよろこんでクラウの背に手を回していたティナも、息苦しくなってクラウの背中をタップし始めた。
アルフレートに注意してもらいクラウの胸から生還したティナは、慌てて息継ぎをした。
ちなみに、お尻と背中に手は回されているものの、未だにティナの足は宙ぶらりんだ。
「ぷはっ! クラウ、一部だけ育ち過ぎてない!?」
「ああ、この話し方…。ティナが帰って来たわ」
「ちょ、待って。ほんとに苦しいから!」
「あら、ごめんなさい。ついうれしくなって、加減を忘れてしまいましたわ」
「なんでそこがそんなに育っちゃってるのよ?」
「これでも二児の母ですよ。大きくなるのは仕方ありませんわ」
「…なんか置いていかれた気分」
「八年も寝るからですわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます