8年も!? 1/2
【ティナ、そろそろ起きてください。寝坊しすぎです】
【…ん…あ? ……アル、今何時?】
【午後三時十四分です】
【…午後三、ウエッ、寝すぎじゃん!?】
【ええ、さすがに八年は寝すぎですよ】
【へ? 八年?】
【はい。正確には、八年と二十六日ですね】
【………ねえアル、瞼が重くて開かないの。口も開かないからしゃべれない】
【そうでしょうね。手足もまともに動きませんよ。各臓器も、医療ポットの補助が必要な状態です】
【………ひょっとして私、死んだ?】
【…どこまで覚えていますか?】
【スタンピードの救援に向かって、魔人と戦ってたら少年の魔人が来て、慌てて吹き飛ばしたら後頭部にガツンと来た】
【ティナのフルネームは?】
【システィーナ=ホーエンツォレルン】
【一番の友達のフルネームは?】
【クラリッサ=シュタインベルク】
【大切な記憶は保持出来ているようですね】
【…そこまで言うってことは、かなり脳にダメージ負ってた?】
【はい。ティナの前世基準ですと、死亡状態でした】
【おう、まじか…。私って、誰にやられたの?】
【ティナが片足を吹き飛ばした魔人ですね。その魔人が投げた手斧が後頭部に直撃しました。なぜ斧に気付かなかったのですか?】
【あれはね、魔人化した少年に攻撃放っちゃって、幼いままのシスティーナが思いっきり動揺しちゃったの。だから魔素感知が疎かになって、飛んで来る斧を感知出来なかった】
【……今通信しているのは、誰ですか?】
【紛らわしい言い方だった? ごめんごめん。ちゃんとシスティーナだよ。ただ、より分かりやすく言えば、システィーナが見た前世の夢で構築した、処理能力の高いシスティーナかな。幼いシスティーナっが自己を守るために作り上げた、一種の拡張オプションみたいな感じ?】
【…あくまでシスティーナの能力の一部なんですね?】
【そうだよ。ただあの修道院では、常にこの能力を使ってないと生き残れなかったから、この状態が当たり前になっちゃってたの。だから、少年魔人殺しかけてあんなに動揺するとは思わなかったよ。自分でもびっくり】
【思考は出来ていたのに、動揺で身体が動かなかった?】
【いや、思考もほぼ真っ白になってて、反射的に防御魔法展開するのがやっとだったよ。後頭部に衝撃受けて思考が戻ったけど、ダメージでかすぎてすぐに意識を失っちゃった】
【……結局、ティナが動揺しまくってミスしただけじゃないですか】
【…そうとも言う】
【紛らわしい! 人格が変容したのかと焦りましたよ!!】
【分かりやすく伝えようとしただけなんだけど…ごめんなさい】
【一応安心しました。人格には問題無いようですね】
【だと思うよ。それで、あの魔人って、調べて何か分かった?】
【超高濃度の魔素が噴出したのは、金鉱山の廃坑でした。採掘量がほとんど無くなって放棄された鉱山に魔獣狩人が入って採掘を続けていたようです。ところが最下層近くに地下の割れ目のような空洞があり、掘削でその空洞と繋がってしまったことがあの魔人化とスタンピードの原因のようです。地下の割れ目が数km単位で下方に続いており、底はとんでもない魔素濃度でした。おそらく龍脈間近なのではないでしょうか】
【それって人災じゃん! あの少年は可哀想だけど、欲でスタンピード発生させて、自分たちまで魔人化させるなんて…】
【人の魔人化はあの時しか発見されていませんが、あの亀裂は危険なので完全に埋めておきました】
【そうなんだ。埋めてくれてありがとう】
【いいえ。あれほどの戦闘力を持った魔人が発生する可能性は潰すべきですから、当然の処置です】
【まあそうだね。それで、かなり聞くのが怖いんだけど、私の身体ってどうなってるの?】
【ティナの脳はかなりの損傷を受け、生命活動が停止した状態でした。残っていた魔人を殲滅するのに時間が掛かり、その後もティナは何度か魔人からの攻撃を受けてしまいました。ティナが体内の魔素制御を放棄したために放出する魔素量が増え、まだ攻撃があると魔人が誤認して止めを刺そうとしたようです】
【あぁ、死にかけて倒れてても、発散する魔素量が増えたら攻撃されると思っちゃうか。でも、あそこにいたのは警護ドローン二機だけだったのに、よく三体も倒せたね】
【警護ドローン二機で、ティナが片足を吹き飛ばした魔人と障壁で吹き飛ばされて脳震盪を起こしたらしい小型魔人はすぐに討伐出来ました。しかし、右肩を吹き飛ばされた魔人は素早い動きで倒れたティナに攻撃を仕掛けていましたので、二機で攻撃してもティナから離すのがやっとでした。そこで近くの森内にいた大型ドローン二機も魔人討伐に参加させましたが、魔人のスピードに追い付けず、ティナを守りつつ逃がさないだけで精いっぱいだったのです】
【じゃあどうやって倒したの?】
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