救援
アオラキから発進したキャリー君がいち早くルーマナ王国に到着し、襲われている町の救援に入った。
すでに城壁の一部が破られて町中に魔獣が入り込んでいたため、ドローンは人々の救助を優先。
活動時間を少しでも長くするためにインビジブル機能を使っていないドローンを見た町の守備兵は、新たな魔獣と勘違いしてドローンに弓を向けた。
そこでティナが空中映像で妖精王国からの救援であることを説明し、ドローンは実際に魔獣を屠っていたこともあって、なんとか敵ではないと認識されたようだ。
しかしドローンは町中の魔獣討伐と破られた城壁の再封鎖を優先したため、数多くの魔獣が他の町や村の方角にも抜けてしまった。
そのためティナは、町中の魔獣掃討が済み次第、近隣の町や村にドローンを向かわせる指示を出した。
遅れてルーマナ王国に到着したティナは、魔獣が出て来る森の前に陣取り、二機のティナ専用警護ドローンと共に魔獣討伐を開始。
一緒に到着したキャリー君二号機に積んでいた大型中型ドローンは、森内の魔獣討伐と異常濃度の魔素噴出現場に向かわせた。
クール君に乗せて来た小型ドローンは魔獣討伐には不向きなので、ポーションでの怪我人の治療用に医療キットを持たせて町に向かわせ、他は情報収集のために各所に散開させた。
ポーションを持った小型ドローンが怪我人に近付くと、勝手に治療を始めた。
驚いて制止しようとする兵の前にホーエンツォレルン城にいるデミ・ヒューマンの映像が現れ、怪我人の治療にあたることを説明。
町中での負傷者治療のために、他の小型ドローンを連れて行くように要求した。
初めて見る空中映像に驚いて固まっていた兵も、手早くアームで怪我人を治療していくドローンを見て、助けてもらえるのだと信じた。
映像のデミ・ヒューマンが、メイド服を着たかなりの美人だったことも、信じる一因になったかもしれない。
一方のティナは、森前で獅子奮迅の働きをしていた。
どんどん森から出て来る魔獣を二機の警護ドローンと討伐していたが、ここは広い草原。ランダン王国での救援の時とは違い、魔獣が地形で集約されてはいない。
しかも広範囲から魔獣が現れるため、戦線が広すぎて森から出て来るすべての魔獣を倒しきるのは不可能だ。
500m以上の幅をドローン二機とティナだけで受け持っているため、どうしても魔獣に抜けられてしまう。
後ろの町やその後方の町と村にはドローンを配備したものの、抜けられる数が多いと守り切れないだろう。
つまり森内に放ったドローンとティナたちだけで、ほとんどの魔獣を殲滅しなければいけないのだ。
今回の救援は迅速さを重視ししたためにバンハイムやシャルト両国に展開しているドローンを回収している時間など無かったため、アオラキとホーエンツォレルンのドローンしか持って来れていない。
しかもアオラキやホーエンツォレルンにも最低限現状を維持できるドローンは残さないといけないので、戦力的には二拠点の半数にも満たない数だ。
この状況は、属国内に均等にドローンを配備してしまったことの弊害ともいえるだろう。
それでもティナの魔獣討伐能力が高いため、この時点では何とかなるはずだった。
実際、森から出て来た魔獣の大半をティナは殲滅出来ていたのだから。
しかし、想定外はいつでも起こりえる。
魔獣を殲滅中のティナに、アルから通信が入った。
【ティナ! 魔獣の中に、魔獣化した人間らしき個体が三十四体。ドローンが追い切れません!!】
【は? 人間らしきって何? 人間は魔獣化しないでしょ?】
【どうやらそれは誤りのようです。高濃度魔素の噴出場所を発見しましたが、鉱山の入り口のようです。しかも魔素濃度が前回スタンピードでの計測値より二十八倍も高いので、超高濃度の魔素に晒されると人も魔獣化するのかもしれません。現在魔獣と共にそちらに向かっています】
【うわ~、さしずめ魔人ってとこか。鉱山に入ってた人が魔獣化、いや魔人化しちゃったのかも】
【状況からの推測ですが、その可能性が高いですね。しかし鉱夫が魔人化したと仮定すると、人数が少なすぎます】
【まあ、今は少なくてありがたいと思おう。あ~、うん感知出来た。死与虎の倍くらいの魔素量だ。この感じ、魔獣の魔素とおんなじ気持ち悪さだね】
【移動速度が速すぎて、ドローンが追い付けません。近くにあるドローンで攻撃は継続していますが、現在までに八体しか倒せていません】
【森のドローンは魔獣の殲滅を優先させて。ごめん、そいつらと戦闘に入るから通信終了】
【町からもドローンを移動させていますが、間に合いません】
【なら、町を守らせといて。こっちは何とかするから! 以上!】
ティナは森から出て来る魔獣を警護ドローンに任せ、魔人化した人間たちとの戦闘に入った。
その戦闘は、人にはほとんど認識出来ないものだった。
双方の動きが早すぎて、目視すら難しいのだ。
戦闘の痕跡は、踏み込んだ際に陥没する地面や、肉体同士がぶつかり合うにしてはやたらと固そうな音。吹き飛ぶ土砂、そしてたまに光る一瞬の閃光。
戦闘は上空も使われた三次元的なもので、上空からの降下攻撃であちこちにクレーターまで出来始めていた。
だが、閃光の後には、動かなくなった人らしき者が横たわる。
ティナは死与虎の強さに倍する魔人たちの攻撃を捌きつつ、何とか一体ずつ仕留めていた。
さすがにアルと通信している余裕など無く、魔素感知で魔人たちを捉え、ほとんど視界に頼らない全力戦闘を繰り広げていた。
アルはクール君の船外カメラでティナと魔人との戦闘を監視していたが、警護ドローンが割って入れるような戦闘速度では無かった。
しかも森からは魔獣も継続して出てくるため、二機の警護ドローンは魔獣の殲滅に手いっぱいだ。
町方向に抜けた魔獣は城壁外に配備した大型ドローンで殲滅出来るが、他の町にも大型ドローンを廻してしまったために機数が少ない。
森内でも魔獣を討伐しないと、ティナや町の方に行く魔獣が増えてしまう。
かなり厳しい状況だったが、そこにダーナが到着した。
到着はもう少し後のはずだったが、状況を見ていたアルが、森の被害など二の次と、ダーナの速度を上げたのだ。
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