閑話 食は王国の枠組みよりも大切 2/2

「クリストフ、ティナ嬢の策を上回る効果を出すなんて…。お前すごいな」

「え? でもこれ、結局ティナ様の策じゃないですか」

「ティナ嬢は、美味い料理を食べさせて、中立派や反対派を懐柔する気だったはずだ。先ほどの状況は、懐柔どころでは無いぞ」

「でもそれって、ティナ様の策が効果絶大だっただけじゃないですか。御前会議でみんなが絶望感じたのも、ティナ様の策が効きすぎただけですよね?」

「…あそこまで効くとは思わなかっただろうがな。今になって気付いたが、俺たちはティナ嬢が穀倉地帯を要求したり軍事行動など起こさないと分かっていたから安心していられただけで、ティナ嬢の性格を知らなかったら、絶望的な状況だったのだろうな」

「ティナ様には本当に頭が上がりませんよ。ランダン王国という枠組みに拘ってるから苦しいままなんだと気付かせてもらいましたからね」

「その通りだな。今にして思えば、なぜあれほどランダン王国という枠を維持しようと必死になっていたのだろうと、疑問にすら感じてしまう。別にランダン王国が無くなるわけではなく、合併してひとつの大きな国になるだけで、国民の食生活はかなり改善される。旧バンハイム王国から奪った穀倉地帯に兵を駐屯させる必要も無く、機械妖精が危険個所を大規模に整備してくれれば災害も減る。道がきれいに整備されれば輸送力が上がり、入って来る物資も増える。こちらから民がバンハイムに移住して食料の生産を始めれば、国としての食料生産量は上がって民も飢えずに済む。さらにスタンピードが起きても、あれほどの力を持つ妖精王国の救援が受けられるのだ。いいことづくめではないか」

「しかも治安が良くなって魔獣に怯える必要も無いし、徴兵していた兵を減らして農民に戻せば食料生産高はさらに上がって軍事費は激減します。当然民の税負担も減りますから益々生活が楽になる。領主たちは代官になりますけど、領によってまちまちだった税も統一されて不公平感も無くなりますし、横暴な代官なんてティナ様が許すはずもありません。なんだか私、ワクワクして来ました」

「未来に希望が持てるのは、本当にいいものだな。だが、これからやらねばならんことが山積みだぞ」

「食料調達に割いていた時間が激減するでしょうから、多分何とかなりますよ」

「まだ合併していないのにか?」

「ティナ様の事ですから、何か考えてくれてると思うんですよね」

「他力本願かよ」

「無くても頑張れますよ。頑張っただけ早く、あの料理が近付いて来る気がするので」

「今度は食い気か。まあわからんでも無いがな。父上も、昨日の料理で、合併後の退位をお決めになったからな」

「陛下が!?」

「ああ。ティナ嬢はランダン国民にもあの料理が食べられるようにする気だと告げたら、涙をお流しになってな。その時に乾燥食料もお食べいただいたら、俺の王太子位返上やバンハイム行きまでお認めいただいた。さっさと共和国の国主になって、国民にあの料理を食べさせてやれだとさ」

「…上の方ほど、民の飢えを気にしておられるんですね」

「そうらしい。父上が泣くのを初めて見て、国民に糧を与えることにそれほどまでに腐心されていたのかと、改めて父の苦労を思い知ったよ」

「…ご苦労なされた分、これからは心穏やかにお過ごしいただきたいですね」

「ああ。そのためには俺たちが頑張らねばな。合併が成ってバンハイムに行っても、しばらくは代官子息たちと横並びで競争だ。これからも頼むぞ」

「あの料理のためなら、是が非でも頑張りますよ」

「お前、そこは嘘でも、俺のためとか言ってくれよ」

「すいません。根が正直なもので」

「お前なぁ…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る