ランダン王国に招待された 1/4
帰国したハルトムートたちが尽力した結果、バンハイム共和国と妖精王国の重鎮をランダン王国に招待して、融和のためのパーティーを開くことになった。
ただ、バンハイム共和国の首脳陣はデミ・ヒューマンたちなので、実質は妖精王国首脳陣の参加だ。
妖精王国側の出席者は、ティナ、アルフレート、アンネリース、ルイーゼ。アンネリースはシャルト共和国の国主として、ルイーゼはバンハイム共和国の国主としての参加である。
当初はランダン王国側に違和感を与えないように女性陣はロココ調ドレスでの参加予定だったが、ティナがドレスを嫌がって卒業式スーツを希望したため、女性陣は全員が同じスーツになってしまった。
ウエストを絞ったダブルの短ジャケットはネイビーブルーで、ロングスカートはワインレッドのタータンチェック。ブラウスの胸元には、スカートと同じタータンチェックの大きなリボン。
ただし、ティナのスカートだけはお子様仕様なので膝丈である。
アルフレートはネイビーブルーのジュストコール姿なので、妖精王国組の衣装は一応統一感が出ていたりする。
パーティー会場は立食形式だが、休憩用に丸テーブル席もいくつか用意されている。
ちなみに今回の料理や飲み物は、妖精王国の料理を知ってもらおうと、すべて妖精王国側が用意している。
このために会場近くの空中には、キャリー君がインビジブル状態で待機し、デッキ部ではドローンがせっせと調理していたりする。
ランダン国王に紹介されて主だった人々と挨拶を交わしたティナは、早々と丸テーブルのひとつに陣取り、食事をしながら前回のお見合いツアーメンバーと談笑していた。
アルフレートやアンネリース、ルイーゼがティナのためにせっせと料理を運び、ついでにランダン王国側にも給仕するために、ランダン王国側は恐縮しきりだったりする。
なにせアルフレートは妖精王国の重鎮だし、アンネリースやルイーゼはランダン王国より大きな国の国主なのだから。
冒頭のランダン国王による紹介をきちんと聞いていればアルフレートやアンネリース、ルイーゼの立場は理解出来ているはずなのに、ティナのためにせっせと給仕していたためか、おかしな勘違いをする者が現れた。
「おい、そこの女。そっちの料理を我らにも給仕せよ」
料理を取り皿に移すルイーゼを従者やドレス姿の女性を引き連れたグループが取り囲み、先頭にいた男が高圧的に言い放った。
だがルイーゼはバンハイム共和国の国主として招待されているため、自分に対しての発言ではないと考えてこれを無視した。
「従者の分際で侯爵である俺を無視するとは…。妖精王国のマナーはなっておらんな。おい、その女を捕まえろ」
男の従者が動いてルイーゼを捕まえようとするが、姿を消して警護に当たっているドローンがこれを許すはずが無い。
「ひぎゃ! 目、目がぁぁぁぁ!!」
「な、何をした無礼者が!?」
事ここに至り、ようやく話しかけられた対象が自分だったと気づいたルイーゼは、侯爵と名乗った男の勘違いに思い至った。
「ランダン王国では、招待した他国の国主に許可なく触れるのが習わしか?」
自分が他国の国主として招待されていることを表し、許可なく触れようとしたことをランダン王国でのマナーなのかと率直に問うたルイーゼだったが、男は自国や従者の行いを馬鹿にされたと受け取った。
ちなみにこのルイーゼ、研修時代に傭兵団の調理担当をしていたため、言葉遣いがかなり男寄りである。
「き、き、貴様っ!?」
「私は女なのだが、ランダン王国では女性を呼ぶ場合も貴様という言葉を使うのか?」
「お、おのれ女のくせに!!」
ルイーゼにとってはこれも素直な質問なのだが、相手にとっては言葉の選択ミスを指摘されて馬鹿にされたとしか思えなかった。
激高した男はルイーゼに殴りかかり、あえなくしみしみ液の餌食になった。
「学習能力が無いのか?」
転げまわる二人の男の前で、ルイーゼは小首を傾げた。
ティナたちはドローンからのインプラント通信で最初から事情を把握して移動を始めていたが、テーブルが遠かったために到着したのは事が終わってからだった。
一緒に来たハルトムートが警備の兵に指示して、男たちとその仲間は会場から連れ出されていった。
「あ、ティナ様。料理遅くなって申し訳ございません」
「それはいいけど、変なのに絡まれたわね。お疲れ様」
「変わった方でしたね。質問していたら勝手に怒ってああなってしまいました。なぜでしょう?」
「…ルイーゼ、もうちょっと言葉選びに気を付けよう」
「ティナ様とアル様以外には、あまり敬った話し方をしたくは無いのですが」
「それは、他者を敬えないってこと?」
「いいえ。対等の立場で相手を思いやっているつもりなのですが、今回の結果からするとダメなようです」
「ダメというか…。もうちょっと思いやる気持ちが伝わりやすい話し方をした方がいいかもね」
「承知しました。ところでハルトムート殿下、ランダン王国では、招待客に勝手に触れたり女性を貴様と呼んだりすることがあるのですか?」
「なっ!? 奴らはそんなことを?」
「はい。国主として招待されていると明かしたのですが、なぜか激高されて殴り掛かって来ました。私は何かマナー違反をしてしまったのでしょうか?」
「すまない。現場を見ていないので分からないが、少なくとも女性に勝手に触れたり貴様と呼んだりする文化は無い」
「そうですか…」
「ルイーゼ、ハルトムート殿下にはきちんと話せてるけど、どうして?」
「ハルトムート殿下やお見合いツアーに参加された方々は、ティナ様のお客人ですから」
「……初対面の人には、私のお客様になるかもしれないと思って話せば、いい感じになるかも」
「なるほど。そうしてみます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます