未来予測プログラム

「それより、カユタヤへの対応は、どうしますか?」

「シャルト共和国が作った避難民キャンプって、まだまだ診察済んでない人多いよね?」

「はい。カユタヤ各地から集まった群衆が約五万人で、現在はまだ二万人程度しか診察は済んでいません」

「診察が済んだ人はどうしてるの?」

「八割ほどは自宅に戻って行きましたが、残り二割はキャンプに居続けています。その多くが、シャルト共和国の新港への移住を希望していますね」

「シャルト共和国としてはありがたいけど、何でそんなにいるんだろう?」

「若者が大半で、シャルト共和国への移住希望者ですね。どうも仕事にあぶれて、新港なら職に就ける可能性が高いと見ているようです」

「ああ、なるほどね。でも困ったな。シャルト共和国内の貧民対策にするつもりだったんだけどなぁ…」

「その貧民が、今はほとんどいませんよ」

「え?」

「原因は配った魔獣素材です。各領の年間予算を超える収益になってしまったので、各領が色々な仕事を発注して人手不足になり、仕事にあぶれていた者も職にありつけるようになっています」

「…でもそれって一過性のものだよね? 魔獣素材のお金が無くなったら、また仕事減っちゃうじゃん」

「アンネリースが各領代官に対して、十年間に分割して魔獣素材の売上金を使うように指示してますから、しばらくは持ちそうです。しかも各領の大規模工事はドローンでやってしまいましたから、領の財政自体にも余裕が出来ていますね」

「じゃあ、ある程度は受け入れ可能?」

「全部受け入れても大丈夫です。新しい港町を作っただけではなく、流通経路となる町も拡張しましたよね。しかも港町への食料供給のために農地拡大までしていますから、農民や商人、運搬人に荷受人など、人材がまったく足りてませんよ」

「ちょっとずつ大きくする気だったんだけどなぁ…。まあいいや、受け入れられるなら受け入れちゃおう。でも、やるなアンネリース。わたしは魔獣素材の代金まで気が回らなかったのに」

「これもある意味ティナのおかげですよ」

「え、どゆこと?」

「領地経営のシュミレーションプログラム、デミ・ヒューマンたちの実習教材にしてましたよね?」

「あれは、人々の生活にはどういった物資や環境が必要なのかを理解してもらおうと思って組ませてみてるだけで、実際に使えるような代物じゃないよ」

「かなりの人数のデミ・ヒューマンが、実習終了後もプログラミングし続けてますよ。予測精度を上げるために複数人で改良し続けていますから処理データが膨大になって、今ではアオラキに専用シュミレーター演算施設が出来てます」

「マジ!? 私はゲーム感覚で基本的なとこを覚えるためにプログラミングしてもらっただけで、未来予測に使えるようなものじゃなかったのに」

「それが不満だったようです。今では予測精度を上げるために、地理的要因や気象情報、周辺国の政治体制や世代分布など、ほとんど現実と変わらない条件設定でシュミレーション可能、しかも諸条件入力はAIによる自動収集にまでなってます。今回の黒死病騒ぎによる避難者が予測出来なかったため、今後は人の感情や群集心理なども演算に組み込もうとしてますね」

「すごいな!! なんかそのうち未来が予測出来ゃいそうだな」

「予測した近未来との整合性は現在で39%ですから、まだまだです」

「いやいや、それって四割近く近未来が分かるってことじゃん。すごいよ!」

「そのシュミレーション結果では、魔獣素材の収入を十年間に分割するのが一番良い費用対効果となったので、今回の通達に至ったようです」

「そっかぁ…。でもさ、それデミちゃんたちが頑張った結果であって、私関係無くない?」

「ティナがプログラミングさせたたことで、デミ・ヒューマンたちに不満や悔しさを実感させてしまったのです。電子脳を持つデミ・ヒューマンにとってプログラミングは簡単なものです。それが使い物にならないへっぽこプログラムを作ったわけですから、結構ショックだったみたいですよ」

「うわ! 私って、知らないうちにデミちゃんたち傷付けちゃってた!」

「不満や悔しさを感じさせるには良い実習教材ですから、今後も使いますからね」

「私、デミちゃんたちに負の感情を与えたくないんだけど…」

「甘やかされてばかりの子どもは、将来どうなるんですか?」

「うぐ…。そうなんだけどさぁ…」

「デミ・ヒューマンたちは優秀ですよ。だから今では、あのプログラミングの事をティナに感謝しているんです。自分たちが驕らずにいるための、ありがたい授業だったと」

「教える側に、そんな意図無かったのに…」

「有っても無くても、いい結果が出る以上これからも使いますからね。デミ・ヒューマンたちのためです。心を鬼にして教えてあげてください」

「………はぁい」

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