流言飛語で政府が崩壊しちゃった
シャルト共和国がカユタヤとの国境を閉じたことで、カユタヤ国民は自国の運営陣に対して不満を募らせていた。
多くの民が妖精王国の医療チームに助けられ、妖精を信奉するようになっていたからだ。
自国の運営陣は、星の影響病蔓延の責任を妖精王国に擦り付けようとして妖精王国の好意を踏みにじり、その属国であるシャルト共和国にまでそっぽを向かれてしまった。
次に何かあっても、もう妖精王国やシャルト共和国からの支援は無いだろう。
またカユタヤの商人たちもシャルト共和国に輸入品を売れなくなり、輸出用の魔獣素材も仕入れられないことで売り上げを大幅に落とし、やはり国家の運営陣に不満を募らせた。
急速に悪化する経済活動、国家運営陣に対する住民の不満蓄積。
そんな時、バプールに向かった船が、バプールに入港出来ずに帰って来た。
原因はバプールでの黒死病発生。
この船はバプールに入港していないために黒死病感染者などいないのだが、たまたま二人の船員が相次いで病に倒れたため、勝手な憶測がうわさとして広まってしまった。
『黒死病のために船が入港出来ず、そのまま帰って来た』
『帰ってきた船の船員が、相次いで倒れた』
この二つの情報が変質し、『船が黒死病を運んできた』となってしまったのだ。
この時代、黒死病の致死率は非常に高い。
妖精王国の好意を踏みにじったカユタヤは、もう助けてはもらえない。
そんな不安から、港町の住民たちはパニック状態に陥ってしまった。
最初は複数の者たちが黒死病への感染を恐れ、食料を買い漁ってから家に閉じこもり、誰とも会おうとはしなくなった。
そんな隣人を見て危機感を感じれば、自分たちもと真似をして閉じこもる者も出て来る。
それを見た者たちは、黒死病が広がっているために家に閉じこもっているのだと認識してしまった。
こうして港町は、異様な雰囲気に包まれていった。
そして買い溜めで食料が減った港町から、食料を求めて住民たちが周辺の町や村に移動を始めた。
食料を求めての移動なのだが、不安に駆られた住民たちには、町を逃げ出しているように映ってしまった。
そしてこの町はもうダメなのだと勘違いし、慌てて町から逃げ出した。
こうしてカユタヤの港町からはどんどん人が減り、町としての機能を失っていった。
この現状を目の当たりにした統率評議会の議員たちは、黒死病によって町の機能すら維持出来なくなったと誤認し、わが身可愛さに、国の統制を放棄して逃げ出した。
だが、唯一陸路で繋がっているシャルト共和国は国境を閉鎖しているし、自分たちは欺瞞情報を流して恨まれている。
そこで残った仲間たちと財貨をかき集め、自分たちが運営している商家の船員を使って船を仕立て、海外へと逃げた。
一番近い港はバプールだが、そこは黒死病が蔓延していて入港も出来ない。
次に近いのはイングラム王国だ。
そこでも黒死病が蔓延し始めていることを知らず、黒死病が発生していない自国から逃げ出したのである。
「…流言飛語や群集心理で無政府状態になる国が出るなんて、マジ?」
「正確な情報が入手出来ないと、こんなことにまで事態が発展してしまうんですね。さて、どう対処します?」
「……シャルト共和国から医療団派遣しよう」
「黒死病は発生していませんが?」
「今カユタヤの多くの住民たちは、黒死病が発生したって信じてるの。あの状態で発生を否定しても、疑心暗鬼になるだけだよ。今必要なのは、ちゃんと医師に診てもらって治療薬か予防薬を飲んだっていう安心感。だからビタミン剤や精神安定剤与えて、食料も配布しよう」
「こちらからではなく、シャルト共和国からですか?」
「今カユタヤは無政府状態だから、シャルト共和国に吸収することになるはず。だったら吸収する国が助けた方が、反感買いにくいでしょ。それに、イングラム王国の黒死病がどうなるか分かんないから、こちらの人員は残しておきたい」
「そうですね。統治はどうします?」
「運営陣がいなくなっただけだから、残ってる役人たちはそのまま使おう。統率評議会の代わりにデミちゃんたち派遣すれば、少数で統治は出来るはずだから。あ、でも不正の証拠がある役人は罷免してね」
「了解です」
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