身も蓋も付けた
「ふう~。イングラム王国も自身の手の者で黒死病発生を確認しないと動けないだろうから、残念だけどイングラム王国の対応待ちだね」
「国交の無い海外の他国で、港町封鎖や医療チーム派遣などすれば、侵略や内政干渉ですからね」
「……こっそり妊婦や子どもの感染者に、特効薬投与出来ない?」
「意識不明なら注射しましょう。医療従事者もですか?」
「黒死病の治療や看護にあたってる人の飲み物とかに混ぜられる?」
「何度かに分ければ、可能ですね」
「お願いします」
「了解です」
「そういえばさ、町の門に付ける読み取り装置って、黒死病の感染確認可能にはならない?」
「体液採取出来ませんから、発熱とリンパ節と肺の炎症確認程度ですね」
「それでもいいから作っといてくれる? 国境門とかに付けとけば、それなりの防疫効果もありそうだから」
「検疫ゲートとして、各種感染症に対応出来るように作ってみます」
「うん、お願い」
「了解。あと別件報告ですが、ウベニア王国、どうやらガイゼス帝国の傍系王族による従属国だったようです」
「それで独立保ててたのか! でもなんで従属国だってことが隠蔽されてたの?」
「ガイゼス帝国に攻め込まれないための軍事費として、かなり高額の税を取ってました。国民にガイゼス帝国への悪感情を植え付けて高額な税を取り、実際には軍備に廻さず帝国と利益を折半していました」
「うわ、国家規模のマッチポンプじゃん。でも、よくそんなことまで調べられたね?」
「王族のひとりを、眠っている内に医療ポットにご招待しました」
「ああ、なるほど。そんな国、国王を代官にだってしたくないな」
「サウエチア教国への友好使節団派遣で、かなり焦っているようですよ」
「シャルト共和国からは吸収合併を断られ、サウエチア教国とシャルト共和国は友好関係。サウエチア教国は国教を廃して政教分離するから、下手するとシャルト共和国の属国になるかもしれない。さて、挟まれたウベニア王国は、どうするかねぇ…」
「ウベニア王国は、しばらく監視だけでいいですか?」
「うん、そうして」
「了解です。さて、次はバンハイム新首都の稼働ですが、住民がいないのに、本当に稼働させるのですか?」
「うん。首都機能だけ移転して、あそこはバンハイムの政治的中枢になればいいから」
「首相代理は、ルイーゼでいいんですね」
「うん。ハルトムート殿下をヘッドハンティングするまでのつなぎだから」
「ランダン王国、結構揉めてますよ」
「そりゃそうでしょ。実質吸収合併に近いことになるからね」
「もしハルトムート殿下が政争に敗れたら、どうするんですか?」
「バンハイムの新首相に就任してもらう」
「政争で蹴落としたはずの相手が、自国より大きな国の代表に就任ですか。ランダン王国側はやりにくいでしょうね」
「政争でハルトムート殿下を蹴落とすなんて、民の幸せより領主や王族が自分たちの利益を優先したってことだよ。そんな奴ら、苦しんで当然だよ」
「最初からそのつもりだったんですか?」
「違うよ。多分ランダン王国はハルトムート殿下が纏めて、バンハイムと融合することになると思う。民より自己を優先する王族や貴族なんて、民心がついて行くわけ無いから」
「王族や貴族が合併に反対すれば、民より自身を優先する者となり、人の上に立つ資格無しと証明することになるわけですか。あの説得資料には、とんでもない毒が仕込まれていたようですね」
「毒って…。ランダン王国は食料生産量に対して人口過多なんだよ。王国って言う枠組み外して食料が生産出来る地域に移動するのは、当たり前のことだよ。領主だって、領民減って税収落ちたって嘆くより、残った住民は食料不足に苦しまなくなり、移住した住民も自分が食べる食料を自分で作れるようになることを喜ぶべきじゃない?」
「言葉足らずでした。民の上に立ちながら、民を顧みない者にとっての毒ですね」
「当然よ。だってランダン王国の民は、そんな奴らのために苦しんでるんだから」
「最初から問題点はそこでしたか。毒が仕込まれていたわけではなく、私が気付かなかっただけなのですね。ランダン王国のそう言った人たちは、果たして気付いているのでしょうか?」
「最初は気付かず反発して、現体制を守ろうとするでしょうね。問題は、現体制を維持することが民を苦しめてるって、いつ気付けるかだよ」
「ティナやハルトムート殿下は、さしずめ旧体制の破壊者ですね」
「ひど! 体制なんて、状況に応じて変化させるのが当たり前じゃん」
「その基本的なことに気付ける者が、果たしてどれだけいるんでしょうね」
「……大多数、だよね?」
「さあ?」
「いや、普通気付くでしょ。同じ村の中で、西は土地が広くて作物が作りやすい。東は耕作地に適してないのに人が多い。どうすんの?」
「東の住民で、西に耕作地を広げますね」
「ね。私が言ってること、簡単でしょ?」
「…今のたとえを聞いたら、合併反対派貴族は何と答えるんでしょうね?」
「『東の住民は俺のものだから、勝手に持ってくな』とか?」
「…住民、キレますね」
「だからそうなる前に、合併して移住なの」
「たとえが分かりやすすぎて、身も蓋もないですね」
「私だって気を使って、ハルトムート殿下たちには身も蓋も付けて話したもん!」
「…彼らがこのたとえに気付かないことを祈ります」
「気付いたらダメージでかいかな?」
「あれほど苦労して作り上げた、説得資料の価値が吹き飛びそうですからね。ですが、説得される側にもインパクトが大きすぎて使えないでしょう。国交を村内の揉め事レベルにたとえられては、国家運営陣の立つ瀬がありません」
「そんな気がして、言わなかったよ?」
「…気配り出来て偉いですね」
「えへへ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます