イングラム王国
オブライエン侯爵は、見本として提供された特効薬三十本を献上するため、国王に謁見を申請した。
伝染病発生の緊急案件ということで急遽国王陛下との謁見が叶ったオブライエン侯爵は、国王と宰相に港町の現状と黒死病が持ち込まれた経緯を語った。
しかし、オブライエン侯爵の主張を証明する証拠は何もない。
宰相が中立派だったため、若きオブライエン侯爵の主張は信用されなかった。
そこでオブライエン侯爵は、情報の入手経路を明かす。
別大陸に二大大国を属国に持つ妖精王国、その外務卿たるホーエンツォレルン公爵が、属国の女性を違法奴隷として誘拐されたために、妖精の力を使って追跡調査した過程で黒死病の発生が確認されたこと。
妖精王国は、該当女性の返還と誘拐の主犯である王弟の処刑、関係者の処罰を求めるための使節団派遣を準備している。しかもその使節団は、空を飛んでやって来るというのだ。
この時点で、宰相はオブライエン侯爵の正気を疑った。
人が空を移動出来る乗り物などおとぎ話の空想、気は確かかと尋ねる宰相に、ならば証拠を見せようと窓の外を指すオブライエン侯爵。
そこには、宙に浮かぶ中型機械妖精と、その上で跪拝するアンドレの姿があった。
呆然と窓の外を見る国王と宰相に、オブライエン侯爵は告げた。
あれは中型の妖精の一種だが、王都城壁外には妖精王国が貸し出してくれた飛空艇が姿を消したまま宙に浮いている。
実際傍付きや護衛たち十人と一緒に飛空艇に乗り、ほんの二十分ほどでオブライエン侯爵領から王都に移動して来た。
騒ぎになっても良いのなら、その飛空艇も窓の外に呼び出せるのだと。
窓の外に男が一人得体の知れないものに乗って浮いているだけでも見つかれば騒ぎになるのに、十人が乗って空中を移動出来る船など現れては、確実に大騒ぎになる。
窓の外で跪拝するアンドレの姿を発見されては、騒ぎになって王弟派に嗅ぎ付けられてしまうと危惧した国王が『分かったから姿を消せ』と言ったとたん、アンドレも妖精も姿を消した。
状況について行けない国王と宰相の前に、今度は港町の診療所内部を映す映像が空中に現れた。
敗血症による皮膚の出血斑が現れた患者の様子、ペストマスクを付けて治療にあたる医師、郊外で火葬される遺体。
次々に映し出される悲惨な映像に、国王と宰相は声も出ない。
最後に違法奴隷を取引する王弟側近と王弟派の貴族が映し出されて映像は終わった。
オブライエン侯爵は懐から黒死病の特効薬を取り出し、妖精王国の要求を呑むなら、妖精王国は黒死病の特効薬を提供する用意があることを明かした。
長い沈黙の末、国王と宰相は状況確認の早馬を港町に出すことを決めた。
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