オブライエン侯爵家
イングラム王国オブライエン侯爵家の騎士団長アンドレは、出仕前に自宅でティナからの映像通信を受けた。
ホーエンツォレルン城の迎賓館宿泊中に映像による会話は何度か経験していたが、まさか祖国の、しかも自宅で映像通信を受けるとは思ってもみなかった。
映像通信は、ホーエンツォレルン領内だからこそできるものだと考えていたからだ。
驚きつつもティナの話を聞いたアンドレは、ティナの願いを説得されるまでも無く了承し、即座に動いた。
大恩あるティナからの願い、しかもその内容は自国や国王派のためになることばかり。アンドレにとっては願っても無い提案なのだ。
自ら馬を駆って領主邸に駆け込み、緊急事態として現在のオブライエン侯爵に面会、即座にティナとオブライエン侯爵の映像会談となった。
若きオブライエン侯爵にとって、ティナは父親の敵討ちに助力して家宝を取り返す算段まで付けてくれた恩人。
父親を殺されて不安定になった家を立て直せたら、いずれは自ら出向いてティナに礼を述べたいと考えていた。
そんな人物から自国を救うための提案があると聞けば、何を置いても対応すべき案件だろう。
ティナの話す内容は、とんでもない大事だった。
妖精王国属国の女性を違法な手段で奴隷化して手に入れていただけでも国際問題なのに、その主犯が自国の王弟。
しかも秘密裏に女性奴隷を運び込むために、黒死病まで自国に呼び込んでしまっている。
そしてさらに驚くのは、妖精王国は黒死病の特効薬を持っていて、それを国王派に提供してくれると言うのだ。
黒死病が発生している港町は王弟派貴族の領地なために、患者を診断した医師は黒死病だと診断しているのに、国に対しては未だ報告がなされていない。
その貴族が黒死病発生を知りながら、責任を追及されたくないために発生の事実を隠蔽しているのだ。
当然港町は封鎖されていないため、商人たちの出入りは自由。
このままでは黒死病が各地に感染を広めてしまう。
一刻を争う緊急事態に、オブライエン侯爵は登城を決め、馬の用意を命じた。
だが、オブライエン侯爵領から王城までは、馬を乗り継いだとしても二日はかかる。
そのため、ここでティナから新たな提案。
飛空艇を貸すから足に使って欲しい。
飛空艇がどんなものか分からず戸惑う公爵に、何度か乗ったことのあるアンドレが受諾を強く進言した。
腹心であるアンドレの進言に、悪いものでは無いのだろうと頷くオブライエン侯爵。
アンドレに急かされてオブライエン侯爵が正装に着替えている内に、アンドレは大慌てで登城時の傍付きと護衛を集め、鎧を身に付ける。
オブライエン侯爵の準備が整って中庭に出ると、クール君二号機がインビジブルを解除し、その姿を現した。
驚く皆をなだめ、クール君から出て来た中型ドローンに乗り、クール君への搭乗の仕方を説明するアンドレ。
初めての体験ばかりで目を白黒させるオブライエン侯爵は、あれよあれよという間に王城に到着していた。
ただ、さすがに他国で、しかも無許可で飛空挺が王城に降りるわけにはいかない。
そのため王都城壁外で降りての移動になったため、クール君での移動時間より王都内を移動する方が時間が長かった。
オブライエン侯爵にとっては、冷静になる時間が取れてありがたかっただろう。
なにせクール君での移動中も、港町での黒死病発生状況、感染を確認した医師、黒死病がバプールから持ち込まれた経緯、違法奴隷取引時の映像などなど、山盛り情報を詰め込まれたのだから。
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