デミちゃん怪我させた似非宗教は消えた
「ティナ、バプールの黒死病封じ込め、成功のようです」
「お、バンハイムには波及しなかった?」
「はい。直近一か月内に国境を通過したバプール人は、全員未感染が確認されました。それと、シュタインベルクに向かった者はいませんでした」
「とりあえず一安心だね。それで、発生元のバプールはどう?」
「ほとんどの感染者は治療済みですが、一日数人程度の新規感染者が出ていますね」
「大元のネズミや、媒介者のノミが問題か…」
「駆除を進めてはいますが、衛生状態のひどい地域が多く、根絶には至っていないようです。引き続き駆除を続行します」
「うん、お願いね」
「了解。あと二点報告があります。一点目は、サウエチア教国が国教であるサウエチア教を廃し、国名を変えて民主化する動きがあります」
「え、それは無茶でしょ。今まで領主据えずに宗教を統治の根幹に置いてたんだから、代替えになる組織や統治機構なんて無いじゃん。一から統治機構作るなんて、どんだけ時間かかるのよ。出来上がるまで住民の統制執れないよ」
「現状の統治機構を、徐々に変化させていく算段のようです。現在は各地方にある大教会が地域を統治していますが、暴露映像で各大教会のトップが交代し、人徳が篤い者に替わっています。どうやらその者を領主のような立場にして、徐々に宗教色を無くしていくようです」
「…まあ、それならなんとかなるか。でも、なんでまたそんなことになったの?」
「新教王が教会組織の腐敗を嫌悪しており、当初は組織の浄化と綱紀を粛正するつもりで新教典の制定に取り掛かりました。ところが、大聖堂の古い資料を調べたら、民衆を統治するために都合のいい教義を審議編纂した資料が見つかったのです」
「うわぁ~。教義を信じて敬虔に祈りを捧げてた人には、致命傷じゃん。教会のトップである教王自身が、信仰失ってブチ切れちゃったのかな」
「教王の心境までは分かりませんが、『民は宗教によって治めるものではない』と発言していますね」
「デミちゃん傷付けられて腹立ってたけど、それは実行犯と命令者や賛同者に対してだからなぁ…。なんか可哀想になって来たな」
「仕方ありませんよ。事実とは、意外に残酷な物です」
「そうなんだけどねぇ…」
「最後に、シャルト共和国の東に隣接するウベニア王国が、シャルト共和国に対して吸収合併を持ち掛けて来ました」
「え? あそこには何の工作も手出しもしてないのに?」
「はい、向こうから自主的にです」
「……以前からシャルト共和国の動向探ってて、吸収合併が自国の利になると判断した?」
「正解ですが、報告は初めてなのによく分かりましたね?」
「いや、以前あった帝国って、ウベニアからすれば相当危ないアレな国だったじゃん。当然情報収集は怠ってなかったはず。で、シャルト共和国になってもどんな国だか分かんないから一層情報収集に力を入れて、急速に発展してて治安もいいし運営方針もぶつかりそうにないから、大国にくっつく小国という不安定な立場からの脱却を図ったのかなぁって」
「そのようですよ。吸収合併の条件が、王族を領主一族として認めることと、ある程度の自治権を認めることです」
「税額決定権は?」
「自治権内ですね」
「ダメ、突っぱねて。シャルト共和国は地方を代官で治めてるし、税率決定権は国家の専権事項だから」
「了解。合併条件の協議は行いますか?」
「しなくていいよ。あと、サウエチア教国に友好の公式使節団派遣して。ちゃんとウベニアを通ってね」
「…別件ではありませんよね? 理由はなんですか?」
「あの帝国から独立を保ったまま、奴隷狩りの対象にもなってなかったのが気になる。それにサウエチアからの使節団にウベニアの王族が紹介状出してたのも、なんか怪しい。情報収集怠って無いなら領は代官制だって知ってるはずなのに、知らんふりして自治権要求して来てる。だから、シャルト共和国がウベニア飛び越えてサウエチアに友好の使節団派遣したら、ウベニアがどう動くか確認したい」
「了解です。情報収集密度も上げておきます」
「うん、お願い」
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