閑話 クラウの帰還

「クラリッサ様、お戻りをうれしく思いますぞ」

「爺、わたくしが留守の間の領主代行、お疲れ様」

「とんでもございませんぞ。これが爺めの役目ですからな」

「きちんと自身の役目を果たした者を労わるのは、領主の役目では無くて?」

「爺の失言でございました。お言葉、ありがたく頂戴します」

「ええ。それで、わたくしが留守の間、何か変わったことはあった?」

「急を要するご報告はございませんが、クラリッサ様は長旅でお疲れでしょう。一度お休みになられてから、爺めのご報告をお聞きください」

「六日間も他国の王子と王太子を相手にしていたのに、疲れていないのが驚きですわ」

「おや、それはよろしゅうございましたな。では、爺めに結果をお聞かせくださいますか?」

「ランダン王国第四王子アウレール殿下との婚約、受けることにいたしました」

「おお! それはめでたい。爺はクラリッサ様のお子とお会いすることができそうですな!」

「気が早すぎよ。まだ婚約ですら仮の物。半年間様子を見て、双方に特段の事情が出なければ、正式な婚約発表となります。そこからさらに一年の婚約期間を経て、ようやく婚姻ですわ」

「さようでしたか。ですがランダン王国側は、一刻も早く妖精王国と縁付きたいはず。いささか悠長に感じますな」

「ティナがやっちゃったのよ。今回派遣されてきたランダン王国側のメンバー全員の意識を改革してしまったから、これからのランダン王国は激変することになるでしょうね」

「ティナ様ぁ、クラリッサ様のお見合いのはずが、なぜランダン王国側メンバーの意識改革などを…」

「多分わたくしのためでしょうね。ランダン王国の王太子やアウレール殿下が、わたくしやティナと同じ視点で物事を考えられるようにしておいて、未来で対立するようなトラブルを避けるためでしょう」

「さすがわクラリッサ様のご親友。将来ランダン王国とシュタインベルク家が同じ方向を向けば、婿様の実家との関係も良好な物になるでしょうな」

「爺、甘いわよ。仕掛けたのはあのティナなのよ。最終日の今日など、ランダン王国のメンバー全員が、ランダン王国を妖精王国の属国にしようと息巻いていましたもの」

「…は? なぜ王太子や王子が、自国を属国にしようと息巻くのですか?」

「それをたった六日、情報を提供しただけでやってしまうのがティナなのよ」

「…クラリッサ様のご婚姻までの期間が長めに設定されている理由、よく分かりました。ランダン王国は、第四王子殿下の婚姻どころではない事態になるわけですな」

「ええ、日々状況が変化するほど変わっていくでしょうからね」

「大変そうですなぁ…」

「あ、忘れるところでしたわ。バプールで黒死病が発生しましたの」

「んなっ!? なぜもっと早くお教え下さらんのですか!? 緊急事態ですぞ!?」

「ティナが対処しましたから、大丈夫ですわ。おそらくうちは、国境門でバプール商人の入国履歴確認と、無いでしょうが、これからの入国時に身柄を隔離する程度で済みます」

「ティナ様が対処済みとは、どのような…」

「バプールは妖精王国が制圧し、すでに医療チームが特効薬で治療…は、もう終わっている頃ですわね。現在バプールとバンハイムの国境は閉鎖され、バンハイム内ではバプール商人の探索と感染有無の確認。感染が確認されたら、接触者含めて特効薬の投与がなされているはず。当然我が領内の妖精も同じことをしていますから、感染が確認されていれば、もう報告が来ていなければおかしいのよ」

「とりあえずは安心出来そうですな。しかし、妖精王国はバプールまで制圧してしまいましたか…」

「バプールは、黒死病が広がり始めているのに気付いてもいなかったのよ。ティナはバンハイムやシュタインベルクを守るために、嫌々制圧の指示を出していたわ」

「嫌々、ですと?」

「統治する人材が足りないのよ。山脈南部でもまた属国が増えそうだったし、取り込みの下準備をしてある国も二国あったわ。そしておそらく、早期にランダン王国も属国化するでしょう」

「……この大陸、もうすぐ妖精王国に統一されそうですなぁ」

「なるでしょうね。まあわたくしたちは、この領をしっかり守り育てていくだけですが」

「さようにございますな。それで、クラリッサ様は第四王子殿下をどのようにお感じになったのですかな?」

「それは…。まあ、そのうち話します」

「ほっほっほ」

「何よその笑い?」

「お耳が赤こうございますなぁ」

「…」

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