お見合いツアー 最終日 2/2
その後は眼下にランダン王国を眺めながら、ハルトムートの解説を聞きつつ移動。
ランダンの王城に到着したものの、アポなし訪問に近い状態なため歓待は辞退。
ハルトムートが国王夫妻との顔合わせをしたいというので、婚約受諾の報告がてら、私的なお茶会となった。
ランダン国王夫妻は、クラウの付添人であるティナの姿を見て驚いた。
クラウは婚約するアウレールと年齢的につり合いが取れているので、少女なのは分かる。
だが、その少女の介添え人は、見た目五歳の幼女。
事前情報はあったものの、国王夫妻に物怖じすることなく妖精王国の公爵家当主にふさわしい所作と言動を執るティナに、衝撃を受けていた。
何とか挨拶を済ませて雑談に入れば、クラウも年齢に見合わぬ高度な立ち居振る舞いと会話内容。
自国には、こんな博識な少女はいない。
しかも二人が連れている従者も、成人したての若さに見えるのに見事な所作で控えている。
自分たちが相手にしている者たちがうかがわせる相手国の高度な教育に、国王夫妻は密かにおののいた。
一緒に昼食をと誘う国王夫妻に、南部にある属国の隣国が不穏な動きをしているために対処の必要があるからと辞退するティナ。
クラウも長く政務を離れているため、自領に戻らねばならないと話す。
属国隣国の不穏な動きに対処するティナと、領主としての政務を気にするクラウ。
二人は決してお飾りなどではなく、実際にその任に就けるだけの能力があるのだと、短時間の会話で思い知らされた国王夫妻だった。
お茶会を終えた二人は、国王夫妻とお見合いメンバーに見送られ、ランダン王国を後にした。
「…なあ、ハルトムートよ。妖精王国は皆あのように優れた者たちばかりなのか?」
「妖精王国は妖精の国ですから、私も訪問出来ていません。ですが彼女たちの治める領の家人たちは、皆が素晴らしい見識と能力を持っておりました。しかも領民たちの表情も、悔しいことに我が国とは比べ物にならないほどに幸せそうでした」
「それほどか」
「お叱りを覚悟で申しますが、すべてに於いて我らより数段上の能力を有しているようでした」
「…すべて、じゃと?」
「家人でさえ我らを圧倒出来る能力を持っているのです。ちなみに、先ほど見送った五人の中で、一番能力が高いのはホーエンツォレルン公です」
「…さすがに信じられんぞ」
「今回の見合いの行程中に、バプールで黒死病が発生しました」
「何じゃと!?」
「ご安心を。すでにホーエンツォレルン公が対処済みで、バプールは制圧されて医療チームが治療を開始しており、バンハイムに入国したバプールの者たちも、追跡調査中です。おそらく今頃は、黒死病は終息しているでしょう」
「バプールは制圧されたのか!?」
「黒死病を発生させて罹患者が増え始めているのに、王城の者を含めて誰一人気付いていなかったのです。予想罹患者数が三千人ほどになっているのにです」
「そこまで罹患者がおれば、感染の拡大など止められん!」
「事態を重く見たホーエンツォレルン公がバプール制圧を決め、翌日には制圧済みのバプールに十組ほどの医療チームが入り、特効薬で治療を開始していました」
「黒死病の特効薬じゃと!?」
「妖精王国では、既知の流行り病すべての特効薬が作れるそうです。バプールでの治療はすでに終わって、現在は隔離期間中のはずです」
「我が国でもバプール商人を隔離すべきだな」
「おそらく不要です。黒死病の最大潜伏期間は七日なので、バプールから我が国に来るまでに、バンハイムのどこかで寝込んでいるはず。ホーエンツォレルン公がバプール商人を各町の出入りで確認し、接触者を含めた全員の感染有無を確認して特効薬を与えるようバンハイム各領に指示していました」
「……黒死病を、わずか数日で押さえ込めるのか?」
「妖精王国にはそれが可能なのです。さきほどホーエンツォレルン公が言っていた属国の隣国というのは、星の影響病が蔓延したために妖精王国が医療チームを無償で派遣して病を終息させた国のことです。その国が星の影響病蔓延の責任を妖精王国に擦り付けようと欺瞞情報を発表したのがつい二時間ほど前。我々は飛空艇でこちらに移動の途中でしたが、その場でホーエンツォレルン公が一次対応を指示。いまごろはその対応策が実行されて、欺瞞情報を流した者たちは大慌てでしょう」
「……欺瞞情報発表を空飛ぶ船の中で知り、その場で対応策を指示出来るじゃと? つい二時間前に知ったはずが、もう対応策を実行済み? 何だその対応の速さは?」
「それが妖精王国の実力の一端です。黒死病への対応でさえも、ほんの数分で見事な対応策を考えて指示していましたから。しかもホーエンツォレルン公は、我々に驚くほどの情報を開示してくれましたので、報告が山ほどございます。ぜひ大臣たちと共にお聞きください」
「……聞くのが恐ろしくなって来たぞ」
「申し訳ありませんが、早急に聞いていただかねば困ります。なにしろこの国の未来が懸かっているのですから」
「…分かった。大臣たちを招集しよう」
「恐れ入ります」
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