お見合いツアー 最終日 1/2

翌日は少し遅めの朝食となったが、ランダン王国組の表情は明るかった。

しっかりと食べて、長丁場になるだろう説得を乗り切ろうと、元気に話していた。


横で聞いていたクラウが、懐柔どころかティナに同志のような連帯感を示すランダン王国組の様子に、ジト目をティナに向けていた。

彼らは王太子と第四王子、そしてその側近なのに、これから自国を妖精王国の属国にしようと意気込んでいるのだ。

クラウがティナの人たらし技に呆れるのも仕方が無い。


食後のお茶を終えてクール君に搭乗し、一路ランダン王国に向かう一行。

ランダン王国側がティナを身内のように感じているため、艇内は和気あいあいとした雰囲気だった。


しかし、三十分ほど飛んだあたりで、アルフレートがティナに緊急の報告を始めると、場の空気は一変した。

ティナはアルがインプラント通信を使わなかったので、口頭での報告を求めたからだ。


「カユタヤ政府が、港町の住民に向けて欺瞞情報を発表しました」

「内容は?」

「前回の星の影響病流行は妖精王国の手による人為的なもの。その後の医療チーム派遣で住民に恩を売り、カユタヤの国家転覆を計った自作自演だそうです」

「またアホなことを…。船乗りを要求する手はずのシャルト共和国からの使者は、もうカユタヤに着いてるの?」

「まだ道中です」

「危ないからすぐに引き返させて」

「了解。妖精王国としての対応はどうしますか?」

「う~ん…。妖精王国としてはアクション起こさなくていいよ。シャルト共和国から港町の住民に向けて反証映像流そう」

「内容は?」

「まずはこれまでカユタヤがシャルト共和国に対して行った不敬や非道を流して、その後でシャルト共和国内での星の影響病治療のための活動を紹介。星の影響病をシャルト共和国に持ち込んで蔓延させたのはカユタヤだったために、シャルト共和国は治療にかかった費用をカユタヤに請求しようとした。だけどカユタヤでも星の影響病が広がっていたために妖精王国と協議。シャルト共和国は人道的配慮から費用請求を見送り、妖精王国が医療チームを派遣したと経緯を説明。シャルト共和国はすでに自国内に港の造成を済ませて開港準備を進めているため、カユタヤの港は不要。カユタヤ上層部の失策責任を、全くでたらめな欺瞞情報で妖精王国に擦り付けようとするカユタヤ運営陣とは、国交を継続するに値しないため断交。カユタヤの制圧などシャルト共和国の戦力をもってすれば容易いが、せっかく助けたカユタヤの住民を戦火に巻き込みたくないとする妖精王国の願いで派兵は止められている。しかしシャルト共和国は、宗主国である妖精王国の好意を踏みにじったカユタヤ運営陣を許す気は無い。こんな内容の映像流して。あと国境の通行は帰国のみ通過」

「了解。首都ルーデのアンネリースに指示しますので、一旦お傍を離れます」

「うん、お願い」

「うわぁ。カユタヤって、何を考えてるんですかね?」

「多分港を持ってる優位性を武器に、シャルト共和国を揺さぶる気だったんじゃないかな」

「いや、シャルト共和国には、もう港出来てますよね?」

「まだカユタヤ運営陣はそのことを知らないのよ」

「それにしたって、国力が違い過ぎるからケンカ売ったら負けるって分かってるでしょうに?」

「たとえ港を制圧しても、港の運営や船乗り、通商先はカユタヤが握ってるから、シャルト共和国では運営出来ないって思ってるんでしょうね」

「無茶だぁ…」

「我々はティナ嬢に大陸南部の情報をもらっているから無茶だと分かるが、カユタヤ運営陣は自分が知る情報でしか判断を下せない。情報という物がどれほど大切かが分かる典型例だな」

「戦争になる可能性もあるんですか?」

「おそらく無いよ。カユタヤでは軍を準備してる情報なんて無いから、港の運営を盾にシャルト共和国の砂糖や綿、香辛料を買い付ける譲歩を引き出したいんじゃないかな。みんな高額商品だから手に入れたいけど、シャルト共和国は内需を満たすことを優先して、国外への持ち出しに制限かけてるから」

「シャルト共和国側は、宗主国の好意をカユタヤに踏みにじられたのに、軍を派遣しないのか?」

「それが妖精王国の意向だからね。戦争なんて国家の運営陣が勝手に始めちゃうけど、割を食うのは住民たちだよ」

「…耳が痛いな」

「あ、ごめん。ハルトムート殿下を批判する気なんて無かったんだけど」

「ティナ嬢にその気が無いのは分かっているから、謝られるようなことではない。俺は自国民のためにと侵攻に踏み切ったが、東部を追い出された者たちや戦死者とその遺族、割を食った者は大勢いる。あの時点ではそうすることが正しいと思えたが、今では視点が狭すぎたと反省している。公には決して言えんがな」

「相手がアホすぎると交渉通じないから苦労するよね」

「そのアホを乗せられそうな案を出したティナ嬢に言われてもなぁ」

「あんなのたらればの空論だよ。私も旧バンハイムの王族には、行動予測外されて苦労したもん」

「…まさか、上納金徴収軍の瓦解には手を出していないよな? あのおかげで大規模な戦闘にはならなかったから助かったのだが」

「間接的には関係あるのかな? いや、あれは戦闘指揮出来ないバカ貴族指揮官の自滅だな」

「…何をしたのか聞いても良いか?」

「いや、シュタインベルクにまで影響来ないように西部同盟に食糧支援したのと、瓦解した上納金徴収軍の敗残兵を吸収してもらうために食料と燃料をがっぽり追加支援しただけだよ」

「それって充分関わってますよ。敗残兵の多くが西部同盟に寝返ったからこそ、バンハイム王都の戦力が戻らずににらみ合いになったんですから」

「東部に侵攻して来るのは予想してたんだよ。そしてにらみ合いのまま越冬して王都の食料浪費を狙う。うまいことやるなぁって感心してた。バンハイム側は王都に戦力集めても無駄なのにつられてたし」

「危な! ティナ様には読まれてた!」

「もしティナ様がバンハイム側だったらどうしました?」

「え~、そうだなぁ…。王都の戦力を二分して、左右に迂回させて後方狙うかな。あと王都民に兵士っぽい格好させて、王都東部をうろうろ」

「…ティナ嬢がバンハイム側でなくて良かった。兵数の少ない我々は二分するだけでもきついのに、中央突破の動きまで見せられては、降伏するしかなかっただろう」

「大丈夫。あの王族や中央貴族どもが、王都を空けるような作戦採るわけ無いから」

「今になって冷や汗が流れましたよ。ティナ様、当時シュタインベルクにいてくださってありがとうございます」

「私、あの王族大嫌いだったから、絶対味方なんてしなかったよ」

「大変助かりました」

「いや、仮定の話でお礼言われても…」

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