閑話 ランダン王国側一行

「ティナ様って、すご過ぎません? 最後の想定問答なんて、本当に反対してる側だと思うほどの発言や指摘でしたね」

「恥を忍んでティナ嬢に頼んで正解だったな。とんでもない強敵を相手にしている気分だったぞ」

「冷静な指摘をしたかと思えば、こちらの感情を揺さぶるような発言が飛び出して来る。聞いていて思わず心苦しくなってしまいました」

「完全に反対側の意見を言っていたかと思えば、次の瞬間には資料について親身にアドバイスしていただきました。よくあそこまで切り替えが出来るものです。ティナ様が二人いるのかと思いましたよ」

「多才などという言葉では表しきれんな。俺は説得資料の作成をお願いしたのに、終わって見れば資料を作ったのは俺たちで、俺たち自身が納得出来る物になっている。細かな欠点を見つけて指摘したり修正案を出したりしながらも、あくまで主体は俺たちでなければならないと配慮する余裕まであった」

「資料の見せ方も、すごくためになりました。細かな穴がある資料で相手の指摘を誘導して、最後に決定打ですべてを解決したように見せるなんて、私には思い付けません」

「話す時の間の取り方や声の抑揚など、不敬だが父上より上だぞ。その手法を惜しげもなく説明してくれるのは、王太子としての俺への最高の贈り物だ」

「あれはすごかったですね。大国の王の演説かと思いましたよ。そのくせティナ様は普段そんな話し方をしないんですから、話し方に依存しないで行動や結果で住民を納得させてるってことですよね」

「…今日、ひとつ気になったことがある。クラリッサ嬢が、『明かしてよろしいの』と言ったことだ。クラリッサ嬢は言葉を正確に使う印象が強いから、普通なら『言ってよろしいの』あたりが妥当なはずだ。だがあえて『明かして』の言葉を使った。あれはおそらく、クラリッサ嬢はティナ嬢が秘密にしていることに気付いているが、ティナ嬢が情報を開示しすぎているために俺たちにも推察されるのではないかと忠告したのだろう」

「…そういえばティナ様は『怖いから止めておく』と言ってました。辛口の意見を恐れたように聞こえましたが、忠告を聞いて自制するという回答だった?」

「笑えるよな。普段城で相手の本音を読み合っている俺たちの前で、とっさにあんな会話が出来るんだ。二人とも未成年の少女なのにな」

「…私たち、かなり頑張って色々な能力を身に付けてきたと思っていましたが、まだまだのようです」

「ああ。ティナ嬢は別格としても、クラリッサ嬢も相当だぞ。アウレールが相手でなければ、見合いが失敗していたかもしれん」

「何度も言うけど、僕、頑張ってないからね? この資料作りだって、悔しいけど半分くらい意味が分からなかったから」

「頑張らずに素で対応したからこそ、良い返事がもらえたのかもな」

「一応僕も、王子として頑張ろうとしてるんだけどなぁ…」

「クラリッサ嬢には、裏読みの必要が無い素のお前が良いと言うことなんのだろうな」

「そこは本当の僕を見てくれてるようでうれしいけどね」

「貴族には仮面夫婦も多いが、お前の相手がクラリッサ嬢で良かったよ」

「それはその通りだね。王子なのに素を出せる人と婚約出来るなんて、思ってもみなかったよ」

「今回はアウレールの婚約が目的だったはずなのに、それ以上のものを山のようにもらってしまった。これもティナ嬢お得意の『ひとつの行動に複数の目的を持たせる』という戦略なのだろうな」

「…お見合いを成功させようと意気込んでいた私たちが、いつのまにか自国を妖精王国の傘下に入れるための先兵のようになってます。しかも我々はそのことに気付いていながら、自国のためにやるべきことだと認識している。ティナ様はとんでもない戦略家ですね」

「まだあるぞ。万一自国の説得に失敗しても、大陸全体で物事を考える視点を持った俺たちは、以降もその視点で動き続ける。たとえ妖精王国に所属しなくても、ティナ嬢と同一の視点を持った人材は増えているのだからな」

「同じように国家を運営する者でありながら、あまりの能力差に嫉妬心すら湧かず、ティナ様に尊敬の念を抱いちゃってます。あの人、この大陸の救世主ですよ」

「実質二国を治める統治者でありながら、バンハイムに新首都を建設したことから予想すると、いずれ誰かに統治を任せる気なのではないだろうか。超大国の女王としてふるまえる存在でありながら、肩書は妖精王国の公爵としてここの小領を治める領主でしかない。名誉欲が無いにもほどがあるぞ」

「それがティナ様なのでしょうね」

「…そうだな」

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