お見合いツアー ランダン側の意識改革 1/2

「ハルトームト殿下、私、本日の視察で恐ろしいことに気付きました」

「ほう、どんなことだ?」

「私はバンハイムが羨ましかったのですが、山脈南部と比べると、決してバンハイムの将来性も明るいものではないと感じました」

「よく気付いたな。では、それを見せてくれたティナ嬢の意図は?」

「え、ティナ様の意図? 単に私たちの要望に応えてくださったのでは?」

「要望に応えてくれた理由が大切なのだ。フリッツは気付けたか?」

「我々ランダン王国の者に見せていただいたわけですから、私たちに何かしらのメッセージが込められていたのでしょうか?」

「そこまでは読めたか。おそらくティナ嬢は『我が国とバンハイムを比較してる場合では無いぞ。もっと大きな視点で物事を考えないと、バンハイム共々置いていかれるぞ』と忠告していたのだ」

「…つまり、バンハイムとの融和よりも先を考えろと?」

「そうだ。極論を言えば、とっとと山脈の北でまとまって、南と歩調を合わせて動いた方がいいと教えてくれたのだ。その証拠に、商船の航路まで見せて、海外の取引国と取引商品も教えてくれた」

「私たち、言い方は悪いですが、経済的弱小国家の文官ですよ? 示された課題が大きすぎませんか?」

「ああ、とんでもなく大きいな。だが、うちの王城内を見てみろ。誰もそのことに気付かず、小さな権力争いをしていないか?」

「…今なら分かります。大陸北東部の狭い地域で権力争いなどしていては、大陸南部との格差はとんでもないことになります。その時には国力が違い過ぎて、いきなり降伏勧告されても抗うことすら出来ません。相手が妖精王国でなくてもです」

「だろうな。おそらく国力差は十倍以上。相手は食料も兵力も豊富な上に、妖精王国からの技術支援で技術力も段違いになっているだろうな」

「…ティナ様はそんなことしませんよね?」

「いや、我が国に住む民の事を思えばやるだろうな。だからその前に何とかしろと言ってくれているのだ」

「…シャルト共和国の前にあった国も、武力制圧したと言っていましたね。バプールもそうしていますし、カユタヤやサウエチアでも属国化の下準備は出来ていました。地元の民に歓迎される他国という発想自体が、もうとんでもないです」

「すごいよな。俺は王国時代のバンハイム東部を制圧したが、その地に住まう民を納得させるために、どれほど苦労したことか。戦闘などより、よほど時間がかかったぞ。ところがティナ嬢は、国家の運営陣を制圧すれば、民が喜んで歓迎してくれる状態を作っている。しかもだ、ほとんどの兵が平民なのだから、戦闘すらせずに迎え入れられる可能性だってあるんだ」

「国家の運営方針もすごいですよ。バンハイムやシャルトで見ましたが、街道がきれいに整備されている。しかも機械妖精たちが巡回警備してましたから、犯罪発生率も激減してるでしょう。そうなると今まで近場にしか運べなかった商品が、より遠くまで、早く、安全に、護衛不要で運べてしまう。輸送費が安くなりますから、価格を安価にしても商人は元が取れ、民は安い商品が手に入る。いったいどこまで考えられているんでしょう」

「そこにもうひとつ、あの肥料だ。収穫量が三割から五割増しになるそうだから、増えた分を遠くまで商人が運んで、今まで届かなかった物が手に入ることになる。その分民の生活は豊かになるな」

「兄上、クラリッサ嬢から聞いたのですが、旧バンハイム王国から離脱して上納金が無くなり、税は領の取り分三割だけにしたそうなのです。普通なら以前と領運営の資金は変わらないはずなのに、肥料で収穫量が増え、さらに良い農具で効率が上がり、空いた時間で新たな作物を作って売ったために、税率は同じ三割でも、税収は倍近くまで増えてしまったと。しかも妖精が危険個所を勝手に改修工事してしまったため、災害も起きなくなって被害が無くなり、復旧工事の費用も要らなくなったそうです」

「ははは、すでに実証済みか。そうそう、もうひとつあったな。東都で話を聞いたが、兵が余ったために半数を農民にしたらしいぞ。家付き畑付き指導者付きで、応募が取り合いになったそうだ」

「兵の給金だけでなく装備品の購入費用まで半額になって、作物は増産されるわけですか。なんて羨ましい」

「おかげで砂糖と綿が安く買えた。これだけのことをやってのけるティナ嬢が示唆してくれたのだ。ティナ嬢の期待に答えれば、我が国の民もより幸せになるのは間違いないだろう」

「そうなのですが…。ティナ様って自分に出来ることは人にも出来るとか思ってませんかね? 北部をひとつにまとめて南部と連動しろなんて、一国内の権力闘争に右往左往してる私たちに、どうしろっていうんでしょう?」

「そのために渡されたのがこの端末だ。撮った写真や動画を見せ付け、権力争いなどしている場合では無いと気づかせろと言うことだろう」

「信じますかね?」

「信じさせねば未来は暗いからな」

「…私、バンハイムに移住したくなってきました」

「そう言われているのだ。説得出来なかったら、バンハイムで仕事をしろとな」

「え? そんなこと…」

「これは俺の勝手な想像だが、ティナ嬢は俺たちに危機意識を持たせただけではない。将来の展望を共有する者を育てたかったのだ。ティナ嬢はすでにふたつの大国を運営している。それが大陸全体となれば、負荷が大きすぎる。言っていたではないか、属国化するには人材が足りないと。俺たちは、ティナ嬢のお眼鏡に適ったのだ」

「…そうでもなければ、これほどの知識をほいほいと与えたりはしませんか」

「あ、僕もクラリッサ嬢のお眼鏡に適ったみたい。婚約の話、受けてくれるって」

「何っ!? でかしたアウレール!」

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