お見合いツアー ティナの狙い

今日の日程を終えてホーエンツォレルン城に戻った一行は、夕食までは自由時間となった。

ティナはクラウに誘われ二人でお茶することにした。


「ティナ、あなたかなり手の内を明かしてしまっていますが、大丈夫なんですの?」

「あ、お話はそっちだったか。心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ。ランダン王国には、妖精王国との対決路線は避けて欲しいからね」

「それは、バンハイムの新首都を見せるだけでも充分だったのではないですか?」

「それだけだと、妖精王国の属国になって生き残ろう路線になっちゃうでしょ?」

「他にも目的がありましたのね」

「ランダン王国の一行って、結構いい人材だと思わない?」

「それはまあ、思いますが…。まさか、スカウトする気ですの? 相手は一国の王太子ですわよ?」

「まあ淡い期待なんだけど、どうせならランダン、バンハイム、バプールまとめて一国にして、代表になってくれないかなぁって」

「それで大陸南部が、シャルト共和国に吸収されそうな状況まで見せたのですね」

「うん。大陸南部は超大国化して一国にまとまりそうだから、北部も分かれてないで一国にまとまって統一された動きをしないと、南部に置いていかれるって気付いて欲しかったの」

「…大陸地図を見て分かりましたけど、山脈北部は、南部の半分ほどの広さしか無かったんですのね。バンハイムの平野部は広いと思っていましたが、シャルト共和国に比べたら小さかったですわ。しかも南部の方が人口もはるかに多そうですから、将来の発展性は南部の方が高い。大陸外と取引出来る港も大きいし、ふたつに増えるのが決まっていますからね」

「そうなの。いまランダン王国がバンハイムに対して感じている将来性の差は、そのまま北部と南部の差になりかねないの」

「……それでハルトムート殿下を、北部の代表に据えたいと?」

「うん。未来を実感してる人がなってくれると、北部だけ過疎化するのは避けられるかなって」

「過疎化って、バンハイムは今から人口が増えますでしょうに」

「南部はもっと増えるから、相対的には過疎化だと思う。今のままだと港もひとつで貧弱だから、南部との連動しにくくて物流ラインも細すぎる」

「大陸西部の広大な魔の森が無ければ、南部と道を繋げられますのにね」

「あそこは太い龍脈走ってるから道作っても森に戻りそうだし、なにより魔獣が怖くて通れないよ」

「そうなると大陸の東と西に港を作って、北と南を繋げるくらいですわね」

「西はもう繋げられそうだから、後は東側だね。港なんて小さな漁港くらいしか無いから」

「ランダン王国も、海に出るには山脈の曲がった部分や魔の森が邪魔ですわよ」

「龍脈が走ってないけど、魔の森と繋がってるから魔獣がいる森があるんだよ。あそこを切り開けば、海には出られる」

「龍脈の地図や魔素の可視化が出来るようになりましたから、ランダン王国側も気付くかもしれませんね」

「だけど魔獣が流れ込んでる森が海まで15km以上続いてるから、人力では厳しいと思うよ」

「そうなんですのね。ランダン王国が港を持つには、妖精の力が必要なわけですか」

「それもあって、いっそのこと北部をひとつの国にしたいんだよねぇ。バンハイムとランダンのトップになるんだから、ランダン王国の面子も立つと思うんだ」

「バンハイム側の反発はございませんの?」

「今は私が直接統括してるけど、北部地域全体の管理者が出来るだけだから、体制に影響は無いんだよね」

「ランダン王国に支配されたように感じる方はでませんか?」

「そんなふうに感じるなら、その人は代官不適格だね。今まで私に従って来て、私の下にひとり入るようなものなんだから、自分より上が増えて悔しかったら実力でその地位に上り詰めればいいだけだよ」

「まあそうですわね。…あの、ティナにわたくしから報告がございますの」

「お、そっちもあったのね。そっちが本題だよ」

「本題と言っても報告だけですわよ。アウレール殿下とのお話、お受けしようと思いますの」

「おおう、ついにクラウも婚約者持ちだ。おめでとうでいいのかな?」

「シュタインベルク家や領の事を考慮に入れているのは事実ですけど、わたくし個人があの方とならやっていけそうだと感じましたの」

「それは良かった。第三者的に見ても、相性良さそうだなって思ってた」

「ティナもですのね。ユーリアとカーヤも、同じことを言っていましたわね」

「二人も賛成なんだね。このままうまくいくといいねぇ」

「何事も、進んで見なければ分かりませんわ」

「そうだけど、願う分にはタダだから」

「…ありがとう、ティナ」

「お礼はもっと幸せになってからがいいな」

「何度言っても良いではありいませんか」

「それもそっか」

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