お見合いツアー 大陸視察 5/5

水の怖さを知るおかしな授業(?)を終えた一行は、ティナをガイドにシャルト共和国上空を遊覧したのち、カユタヤ商国上空を抜けて海上に出た。


ティナとハルトムート以外は初めて海を見たようで、しばし海上を海岸線に沿ってゆっくり飛行しつつ、艇内に持ち込んであったサンドイッチで昼食。

その後陸地上空に戻り、見学ツアーを再開した。


ただ、シャルト共和国から東は入国許可を出せる者がいないので、少し高度を上げた上空からの、望遠映像による視察だ。


サウエチア教国上空に入るとティナの解説に悪口が混ざり始めたため、ハルトムートが詳しい解説を求めた。

しばらく逡巡していたティナだったが、やがてシャルト共和国でのデミ・ヒューマン襲撃事件の概要を話し出した。


妖精の力を得ようとしての、町中で通行人に偽装した襲撃者がいきなり襲って来るような襲撃方法。

襲撃者が多かったために完全には守り切れず、数名が負傷。

襲撃を命じた者を突き止めたティナは、報復を実行。

命令者の教王は、妖精による攻撃で全身に斑点のようなやけどを負い、職務遂行不可能な状態。

新な教王を立てようとしたら、候補者全員が不正を行っており、証拠映像を町中で放映されて失脚。

民に信望の篤い者を引き上げて教王の座に就かせるも、傀儡のように操ろうとした証拠映像までもが公開され、教王の側近となる者まで失脚。

現在は敬虔な聖職者を集めて大臣とし、何とか国を運営している状態だ。


一方国民の間には妖精のたたりの噂が広まり、妖精を恐れかけた。

ところが、各地で妖精に助けられる子どもや真面目な者が出始め、今では妖精は子ども好きで悪人にだけ手痛いいたずらを仕掛ける者として、大多数の正直者たちに愛されているらしい。


「欲を掻いて強大な力を手に入れようとした者が手痛いしっぺ返しを喰らっただけとも言えるが、国家の威信を教義に頼っていた国が国の重鎮どもの醜悪さをバラされれば、失脚どころか信者から恨みを買うぞ。上層部総入れ替えでもせねば、信頼は取り戻せん」

「しかも、ちゃっかり妖精が国民に親しまれちゃってます。もし妖精王国の属国になったとしても、国民たちに歓迎されそうですよね」

「バプール、カユタヤ、サウエチア…いったいどれだけの国に手を出しているんだ?」

「全部こっちは受け身だよ! こっちから侵略しかけたわけじゃないから!」

「今、一瞬目が揺れたな。まだあるのか?」

「…サウエチアの東の国も、友好使節団なんていいながら魔法大国の自国に従えみたいなこと言って来て、私にちっちゃな魔法の火の玉投げて来た」

「何だその阿呆は? 実は宣戦布告の使者だったのか?」

「いや、まじで友好使節団のつもりだったみたい。魔法では自分の国に敵わないから、仲良くした方がいいぞ、みたいな感じ」

「ティナ嬢に魔法で敵うわけないだろうが。友好使節団のくせに下調べすらしていないのか?」

「下調べどころか、先ぶれすら寄こさずいきなり城に来て、歓待のパーティー開けだって」

「…ティナ嬢に同情したくなってきた。そんな奴を友好使節団として派遣する国など、どう見てもまともな国では無いぞ。宗主国の窓口となる公爵に攻撃を仕掛けられたのだ。国交断絶程度では済まされん。なぜまだ制圧していないのだ?」

「いやぁ、それがさぁ…。私に『死ね!』とか言って投げつけて来たの、5cmくらいの火の玉なんだよ。なんか愚かすぎて可哀そうになって来ちゃってさ。だから×マークと国外追放で許してあげたよ」

「それではシャルト共和国のメンツが立たんぞ」

「シャルト側は徹底的にやりたがったんだけど、最上位権限者私だから、折れてくれたよ。ただ、盛大な勘違い野郎国家放置も腹立つから、あっちの国や周辺国で、その時の映像公開してやった。見る? これだけど」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…なあ、ティナ嬢の近くでは、魔法は消えるのか?」

「自分の近くに攻撃性の魔素あったら、普通は消しちゃうって。ハエとか飛んで来たら、無意識に払っちゃうでしょ?」

「この人、ハエと5cmの火の玉、一緒にしちゃってます」

「それどころか、全員の魔法を使えなくした上に、話すことすら出来なくさせているな」

「だって、話せば話すほどどんどん墓穴掘ってくんだもん。見てていたたまれなくなっちゃったんだよ」

「…愚かすぎて、殺そうとした相手から同情される奴、初めて見たそ」

「私も、あんな気持ちになるなんて思わなかったよ。この人はこんな風になっちゃう環境でしか育ってこれなかったんだって思ったら、可哀想で可哀想で…」

「で、その可哀そうな奴の国は、どうなったんだ?」

「あ、私聞いてないや。アル、どうなったの?」

「あの映像を公開したことで、魔法を権威の盾にしていた王族たちは全く大したことが無かったんだと周囲から認識され、周りから反発されていました。ここまでは報告しましたよね?」

「うん、聞いた。それからだいぶ経ってるけど、なんか変化あったの?」

「まず、王族の権威失墜の原因となった男は、他の王族に斬り殺されました。そして権威が失墜した王族は貴族たちの手によって葬られ、今は貴族たちが新たな王を立てて国を運営してますね」

「あーあ、あの愚かさも、愚か者同士だと通用しなかったのか」

「斬りつけて来た者の髪を、あの火の玉でチリヂリにはしてましたが、そこまでだったようです」

「何その画づら。殺伐とした場面のはずなのに、決死で笑い取りに行ったの?」

「ブフォ! ティ、ティナ様、言い方ぁ!」

「あ、ごめんなさい」



その後は大陸南東部の国々を巡って大まかな産業などを教えられた一行だったが、ハルトムートが海外の近隣国も知りたいと願ってきた。

ハルトムートはティナに対して遠慮が無くなり、この際もらえる情報はすべてもらおうとしていた。


ティナは地図の表示エリアを他大陸まで拡大させ、商船の航路や輸出入品などを紹介した。

そして元サルデール王国を、奴隷から搾取して滅んだ王国として紹介。

こちらの大陸に奴隷狩りに来たため、実行部隊を殲滅して連れていた奴隷たちを解放し、シャルト共和国で受け入れたことも話した。


ただ、奴隷狩りの標的にされて、ティナが実行部隊殲滅だけで済ませるはずが無い。

結局ハルトムートに問い詰められ、王城を爆破して奴隷虐待者に罰を与えたこと告白させられた。

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