お見合いツアー 大陸視察 3/5

一夜明け、今日は大陸南西部の見学。

ホーエンツォレルン城から一旦は西に向かい、大陸の南西端から見学開始。


ほとんどが魔の森なため、造成中の港町が目立つ。

当然質問されたので、地図を表示してシャルト共和国の位置関係を示し、他国と魔の森、山脈に囲まれていて、大国なのに港が無いことをティナが解説。


港を持つ隣国カユタヤとはあまり良好な関係では無いため、広大な国土を活かして小麦、砂糖、塩、香辛料の輸出を、自国の港で行う計画だと話したら、ハルトムートがジト目でティナを見てきた。


「なあ、カユタヤとバプールがダブって見えるのは、俺だけか?」


ここ数日で、ハルトムートはティナに対して素を出すことに慣れたようだ。

会話内容に遠慮が無くなっているし、一人称も俺になっている。


「バンハイムは人口がそれほど多くないから、港が必要になるのは当分先なんだよ。だけどシャルト共和国はかなりの人口で耕作面積も広い。畑にいい肥料を使ったり農機具を便利なのにするだけで、結構な収穫増が見込めるの。余らせるくらいなら、売った方がいいでしょう?」

「わざと答えをずらしてるな。カユタヤを通じて売ればいいじゃないか」

「あそこも儲け第一なんだよ。シャルト共和国の小麦買い叩こうとするし、輸入品なんて倍以上の値段吹っかけてくるんだよ。しかもちょっと前に、星の影響病蔓延させてシャルト共和国内にまで感染広げたのにまともな対策採らないから、こっちから民間医療チーム派遣して鎮めたの。なのに謝罪どころか、お礼すらしてこないんだよ」

「すでにバプールと同じ状況が発生していたのか。カユタヤを制圧しなかったのはなぜだ?」

「致死率と人材。カユタヤは複数の町や村を持ってるから統治機構再編するの大変だし、統治するための人材もたくさん要るんだよ。それに黒死病は致死率高すぎて、町を制圧してでも早期に治療しないと、犠牲者がとんでもないことになるから」

「俺も話でしか知らんが、黒死病はそれほど怖いのか?」

「星の影響病と比べても、致死率は倍なんてもんじゃないから」

「理由には納得したが、結局カユタヤは衰退しないか?」

「そのつもりだよ。弱って属国にしてくださいって言って来るの待ってるの。そうすれば統治機構再編も楽だから」

「権力者たちはぎりぎりまで権力を手放すことはせんだろう。その分、民が困窮するな」

「餓死者とか出だす前に、炊き出しチームとか派遣する気だよ。すでに医療チーム派遣で権力者の人気ガタ落ちだし、不正の証拠もそろって来てるから」

「……俺は国土を拡大するなら戦争で侵略すると学んだのだが、間違っていたのか?」

「それも手法のひとつだよ。私だってシャルト共和国の前にあった国を武力制圧してるし、バプールもそうしたでしょ。だけど戦争せずに国土が拡大して、吸収した場所の民を幸せに出来るなら、しないに越したことはない。人が人を殺すなんて、どう言い繕ったって人殺しでしかないよ」

「俺はそれをしてしまったが……」

「自国の民を餓死させたくなかった王太子が、王太子としてやったことでしょ。旧バンハイムの王族なんて愚者の極致みたいなのとは、いくら交渉しても無駄だっただろうし。自分が人殺しだって認識持ってれば、それでいいんじゃない?」

「そういう発言が出ると言うことは…」

「うん、私は人殺しだよ。結構殺してるし死なせてもいるね。私は私が守りたかった人たちのために、頼まれてもいないのに自分勝手に相手を殺したの。これは完全に私の我儘で、自分が背負ってく罪だと思ってるよ」

「恐れながらホーエンツォレルン公爵、それは正義を執行しただけなのでは?」

「私、自分が正義だなんて絶対言わないよ。正義って言葉は、為政者が自分の良心の呵責をごまかしたり、人を扇動したりする時に使う言葉だから。人の命を奪っておいて正義を執行したなんて言う人を、私は絶対信用しない」

「それでは為政者や権力者は、何をどうしても罪を背負うことになりませんか?」

「そうだね。為政者や権力者は、他者を害する権利を民から預けられてるようなものよね。実際にはそんなの権利じゃなくて、ただの欲の集まりなのに。自分たちを豊かにして欲しい、自分たちの暮らしや命を守って欲しい、だけど人を殺すのは怖いし嫌だから、誰か代わりにやって欲しい。そのためには税を払うのも仕方が無い。税を払うんだから、うまくできなきゃ文句言ってやる」

「…私、なんだか自分の仕事が嫌になりそうです」

「どうして? 守りたい人たちが居るんでしょう? その人たちのためなのに、頑張れないの?」

「う、そう聞かれると、反論が難しいです」

「ティナが子どもたちを無条件で助けようとするのは、そういう思想があるからでしたのね。先ほどの欲を子どもたちから言われたら、何とかしたくなりますわ」

「お金払ったのにうまくいってないって言われたら、ごめんねって謝っちゃうよね」

「それでは大人はどうなのですか? 都合のいいことばかり言っている気がします」

「自分が払った税に対してどこまで要求する価値があるのか。それをしっかり認識出来る教育をするのも、為政者の仕事じゃない?」

「うぐっ、反論出来ません」

「少しだけ分かった気がする。ティナ嬢は民を子どものように認識しているのだな。子どもの環境を豊かにしたいのも、子どもを守るために他者を害するのも親の保護欲。子どもに判断力の基準となる知識や価値観を教えたりするのは親の責任ということか」

「そうなの。我が子を守るために他者を殺めてしまったら、それは単なる親の欲。だって、殺められた人も誰かの子どもだから」

「…あの、考え無しで生意気な子どもには、腹立ちません?」

「そのあたりは多分、性別で受け取り方が違うのかも。母親は、腹が立つ前にその子の行く末を考えて悲しくなるんじゃないかな」

「それはあるかもな。父親なら、殴って叱りたくなる」

「あ~、そうなのかも。父には反抗心湧いたりしますが、母に泣かれるといたたまれません。でもティナ様、その容姿で語られると、違和感がすごいです」

「…黙秘権行使!」

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