お見合いツアー 大陸視察 1/5

翌朝朝食を済ませた一行は、大陸内視察に旅立った。

新首都周辺を50km/hほどの速度で巡り、西部方面に移動。

クール君の中では地図や地上の拡大映像が表示され、社会科の勉強会のようだった。


バンハイム西部では甜菜や綿花畑の大きさを実際に見たり、街道・街中での機械妖精による巡回、元危険個所の改善工事なども、過去の映像を踏まえて見学した。


続いて移動した先は、昨日急報が入ったバプール方面。

国境での検疫の様子や、国境線の警備状況も見た。


そしてバプール王国上空に移動したら、すでに王城や商人ギルドなどの主だった施設は制圧されていた。

しかも、医療チームまで活動を始めていたのだ。


「ちょ、アル! 何でもう医療チーム入ってるのよ!? 安全が確保出来てからって言ったよね!?」

「はい、安全確保済みですよ。患者を怖がらせないように、姿を消した機械妖精が十体護衛に付いています。それと、医療チームの早期派遣は、医療チーム参加者からの要望です」

「え、どういうこと?」

「子どもの感染者が複数確認出来てしまったため、早期派遣を熱望されました」

「……派遣者の安全確保は最優先でお願い。それで、感染状況はある程度分かった?」

「はい、予想以上に広がっていました。まだ黒死病と気付かずに家で寝ている者が多かったのです」

「……そうなるとバンハイムにも入っちゃってるかもね。特効薬足りなくなるかな」

「現在バンハイム領内では、通商路に当たる各町の出入りで検疫を行っています。バプールでの感染者予測では三千人程度ですので、発生源は数日中に抑えられそうです。人口自体が五万人程度の伯爵領クラスで、居住地が港町ひとつだったのが幸いしました」

「小国って言うより、中規模領サイズだったのか。町ひとつだけっていうのは不幸中の幸いだね。後はバンハイム国内がどうなるか…」

「そちらは希望的観測程度の情報があります。バプールとの国境通過者を過去一か月さかのぼって確認したところ、バンハイムへの入国は十八人でした」

「ありゃ。少ないのはありがたいけど、そんなんでバプール経済大丈夫なの?」

「押収した王城や商人ギルドの資料からすると、もうガタガタですね。なにせ最大顧客だったバンハイムが砂糖と綿製品をシュタインベルクから格安で手に入れ始めた上に、ランダン王国にまで販売を始めましたから顧客がいない状態です」

「待って、それってシュタインベルクマズくない? 入国した商人たちの目的って、仕入れなんじゃ…」

「ティナ、そちらは多分大丈夫ですわ。バンハイムとランダン王国の内需で手一杯ですから、バプールの商人鑑札を持つ者は売っていませんもの」

「そうなんだ…。じゃあバンハイムに入って来た商人、どこ行ってんの?」

「我が国でもティナ嬢に必要量を売ってもらえたからこそ、バプールとの取引が無くなったのだ。そうなると商っているのは舶来の嗜好品か珍品あたりではないか?」

「そっちかぁ…。だと、どこ行ってるか分かんないな」

「おそらく各町の検疫で引っかかるでしょう。各代官から、バプール商人を探すように指示が出てますから」

「じゃあ、入国したバプール商人の特定待ちか」

「わざと目を逸らしてませんか?」

「…なんで私がガタガタ経済の尻ぬぐいしなきゃいけないのよ?」

「それは当然、ガタガタになる原因を作った張本人だからでは?」

「現実逃避したかったのに…」

「はいはい。そろそろ諦めましょうよ」

「だって、海外に依存しないようにと各地で色々試しちゃってるじゃん。大規模な輸出品でも無いと、貿易港なんて廃れるだけだよ」

「制圧する前までは、それを狙ってましたよね?」

「…」

「目を逸らしましたわよ。元々バプールを衰退させる気でしたのね」

「だって、バンハイムやランダン王国安定させようとしたら、食料自給率上げるしかないんだもん。ついでに香辛料や嗜好品も作れれば、新鮮なのが近場で安く手に入って国民幸せになるじゃん!」

「それ、後付けの理由ですよね? クラウを狙った暗殺者に商人鑑札与えた奴らを苦しめてやるって言ってたじゃないですか」

「ティナ…」

「アルのアホ! なんで乙女の秘密バラすのよ!?」

「秘密とは言われてませんでしたから」

「ハルトムート殿下、小国を経済的に追い詰めるのを、乙女の秘密って言うんですかね?」

「お前は思ったことを何でもポロっと口に出すから、女性にモテんのだぞ」

「あ、すみません」

「…」

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