お見合いツアー 新首都

新首都見学ツアーを再開した一行は、ティナからタブレット端末を貸し出された。

ティナが前世で使っていた物のように自分でアプリは入れられないが、近くのドローン経由のビデオ通話機能は備えている。

ロック解除が顔・虹彩認証なので他者は使えないが、午後からは自由行動の予定なので、広い庭園部で迷わないようマップ機能搭載だ。

他にも、写真・動画撮影なども出来、操作は音声操作。バッテリーも一か月は持つし、近くにいるドローンからのワイヤレス充電にも対応している。

さすがに護衛の分までは無いが、従者の分までは用意した。


今までは電子機器の痕跡を残さないようにしていたティナだが、この程度なら何かあっても即座にドローンで回収出来る。

万一分解されても解析は不能だし、通信キャリア代わりのアルが認めなければ動作すらしない。


お見合いが進んでランダン王国とシュタインベルクが連絡を取り合うなら必要だろうと、アルに作ってもらって貸し出すことにしたのだ。


ちなみに、婚約成立なら両家の行き来もあるだろうと、クラウ専用のクール君まで製造中だ。

ティナは一番の親友と公言するクラウのために、かなりの融通を利かせていた。



ティナにとってはなじみの深い物でも、渡された側は未知の未来技術。

実際に使い方を教えられても、何を話していいか分からずに押し黙ったり、命じる言葉がお願いになっていたりする。

まあ使っている内に慣れるからと、半ば強引に皆と部屋を出た。


クラウとアウレールは、ピクニックに送り出した。

双方従者をひとりずつ付け、ティナはお茶やお菓子のバスケットを持たせたメイドも二人付けた。

ここはシスティーナ御所の庭とは違い、上部は本当の空。

猛禽類が入り込むかもしれないし、猛禽類に摑まった毒蛇などが落ちて生息している可能性も、とっても低いがゼロではないのだから。


ティナとアルはシュタインベルク側ホスト・ホステスとしてハルトムートに付き、従者二人、護衛二人と共に城壁の屋上へ。

ここなら首都を一望出来るし、写真を撮るにはもってっこいだ。


ティナがタブレット端末を貸し出した理由には、写真や動画を撮って持ち帰らせ、ランダン王国の融和反対派を説得するための材料にしてもらう意図もある。

従者にまで端末を渡したのは、端末同士でビデオ通話を実演してもらい、技術力の高さを証明し、持ち帰った写真・動画の信頼度を上げるためでもある。


渡されたばかりの端末では、まだ何かを撮る発想が浮かばない三人を促し、写真や動画を撮らせた。

ただ、人を撮影しようとすると、『撮影対象者の承諾が必要です』と表示されるので、盗撮防止とプライバシーの説明もすることになった。

ハルトムートはプライバシーの大切さに即座に同意していたので、ひょっとしたら勝手に絵姿でも書かれた苦い経験でもあるのかもしれない。


撮影した写真や動画を見て、やっと端末の便利さに気付いた三人は、動画や写真を撮りまくった。

マンション型住居内では水道や風呂場を撮影。地階の全天候型通路、ボーリング場やビリヤード、卓球台、バドミントンコート。このあたりまでは視察の資料に出来るだろうが、足元の石材や庭の花など撮って資料になるのだろうか。


従者たちが中央棟内部やダムを撮りたいというので、タブレット端末を視察後に渡した理由を説明した。

かなり高度な計算と技術が必要になるダムや、政治的中枢となる中央棟内部は、撮影禁止だ。

ハルトムートに、『うちの城内をくまなく撮影されたらどう思う』とたしなめられ、撮影ジャンキーになっていた従者二人は反省した。


一方ピクニックデートに出た二人はあちこちで感動的な景色に遭い、その風景を残したいと、最初から慣れない撮影を行っていた。

こちらは写真ばかり撮っていたが、風景を切り取ることに慣れてくると、アングルを変えてより好みな角度を探すようになっていた。


お互いが歩き回って移動した先でまた違う風景に出会うと、戻って相手に教え、二人で思い思いに写真撮影。

順調にカメラを使いこなしていた。


かなり歩き回ったのでデミ・ヒューマンのメイドに休憩を提案され、ピンクの乙女椿に囲まれた東屋でティータイム。

これまでに撮った写真を見せ合いつつ、相手が撮った写真から気に入ったものを見つけては話に花が咲く。

タブレット端末を渡されて二時間ほどで、二人は割と有意義に端末を使いこなしていた。


ふたつのグループに分かれて行動していた新首都見学ツアー一行は、ティナからの通信で中央棟に呼び戻された。

タブレット端末にティナからビデオ通話が入り、現在位置から中央棟までのナビゲーション地図が勝手に表示される気遣いっぷりだ。


ティナはビデオ通話の実演にと隣にいるハルトムートたちへも通話を送ったので、端末から通話の許可を求められた面々はあたふたしていたが。


ティナは端末など使わずに空中に相手をディスプレイさせながらの通話だったので、ティナと一緒にいたハルトムートたちは、端末すら不要で一度に離れた複数人と会話出来てしまうティナに驚いていたが。


やがて中央棟に集まった一行は、ティナから今後の予定について相談された。

三日ほどかけて新首都を廻ってもいいが、未だ住民のいない新首都だと、娯楽施設で遊ぶかあちこちの庭を散策する程度しかすることが無い。

そのため、みんなが見て回りたい場所を相談して、残り三日間をどう過ごすか決めようとティナが提案した。


今回の目的はクラウとアウレールのお見合いなので、二人の希望が優先されるのは当然だ。

しばらく話し合っていた二人が出した希望は、驚いたことにこの大陸の周遊だった。


自分たちは民を預かる身でありながら、他領や他国のことは人伝でしか聞いていない。

実際に自分の目で見て自分の立ち位置を確認し、これからの政務に役立てたいとの申し入れだった。


話を聞いていたハルトムートや側近たちも、この意見には大いに賛同した。

立場は違えど、皆が民を導く職責を持つ者たち。思いは同じだったようだ。


結局明日からの三日間は、この大陸を巡って各国各地の立ち位置や産業を見学することになった。



その日は中央棟で会食を摂り、タブレット端末の機能を改めて紹介。

プロジェクター機能があるため、各自が撮った写真や動画のお披露目会になってしまった。

途中、従者や護衛を撮った写真も出て来たが、初めて写真の被写体になった者の顔が強張っているのは仕方のないことなので、笑うのは止めてあげよう。


中央棟には要人や付き人宿泊用の部屋があるので、本日はそちらに宿泊。

ただ大浴場は4km離れた城壁部にしか無いため、お風呂は個別に部屋風呂だ。

端末が防水だからと風呂から通信を繋いだら、サウンドオンリーになるのは仕方が無い。


初めて手にした超高機能(この世界では)な端末を手にした者たちは、延々と端末をいじり倒していた。

初めてスマホを与えられた子どもみたいだが、いじりたくなる気持ちは分かる。


その日各客室では、夜遅くまで照明が灯っていた。

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