お見合いツアー システィーナ御所 2/2

二人を送り出したティナは、残ったメンバーに客室を選んでもらった。

洋室、和室、和洋折衷、異国コンセプトと色々な部屋があるため、主だった部屋を紹介して、後は自由に内覧してから選択すればいい。


ティナは中庭が見えるお風呂があるお気に入りの部屋で、中庭を眺めていた。

この部屋には縁側風のインナーバルコニーがあるので、中庭を見下ろせる。

しばらく中庭の風景を楽しんでいると、しだれ桜の近くにいる二人を見つけた。


このしだれ桜、お見合いの日が決まってからアルがせっせと温度や日照時間を調整し、何とか七分咲きにまで持って来ていた。

しだれ桜はかなり大きな木を移植したので、木の下は花の雨が降るような情景になっている。


距離があるので声は聞こえないが、木の下で花を愛でながら話しているようなそぶりに見える。

先ほどのクラウの発言からも窺えるが、クラウはかなり積極的にアウレールを知ろうとしているようなので、お見合いが成功する確率は高そうだと、ひとりティナはニマニマしていた。



皆の泊まる部屋が決まると、お庭デート中の二人以外でティータイム。

場所が庭の東屋なので二人が来るかもしれないが、その時は一緒にお茶すればいい。


「なあティナ嬢。ホーエンツォレルン城にもあったが、部屋の明かり、壁の出っ張りを押すだけで明るくなるのは、どういう仕組みなんだ?」

「あれは電気ってのを明かりに変える器具が天井にあって、壁のスイッチで電気を流れるか止めるか決められるようにしてあるの」

「でんきとは何だ?」

「ちっちゃな雷みたいな物かな。力を強めると雷出るから」

「神の御業を使って部屋を明るくするだと!?」

「あ、雷ってそういう認識なんだ。この世界作ったのが神様なら、神様の御業ともいえるだろうけど、それ言っちゃったら物が下に落ちたり水が流れたりするのだって神様の御業じゃん」

「……そう言えるのかもしれないが、物を落としたり水を流すのは人の意思でも出来る。雷など、近くにいただけで死ぬぞ」

「それ、一緒の事だよ。高い場所から重い物を落としたら下の人は死んじゃうし、大水だって同じじゃない」

「……規模の問題であって、雷も小さければ人が扱えるということなのか?」

「そだよ。これ見て」

「……小さな雷が、玉になっているように見えるな」

「あ、さわちゃダメ。小さな雷でも、指に穴空くから。この雷の玉は見やすいように私が魔法で作ってるけど、これでも電気の力は大きすぎるから危ないんだよ。だけどもっと小さかったら、色々な物に利用出来るの。そうだなぁ…。水車ってさ、高い滝では使えないよね?」

「水の圧が強すぎて、水車が壊れるだろうな」

「でも低い滝なら、水車はずっと回ってくれるから便利だよね? 電気もおんなじで、電気の圧が高いと雷になっちゃって破壊的になるけど、圧が低いと便利に使えるの」

「…我らにも使うことが出来る?」

「この世界の技術水準だと、かなり長い時間頑張れば何とかってとこかな」

「……おい、今のは失言だろう。聞いてしまったぞ」

「…あ。でも言っとくけど、私は山脈の南の国で生まれた、れっきとしたこの星の人間だからね」

「…まただぞ。その言い方だと、違う星ではその限りではないという意味になる」

「……黙秘権発動でお願いします」

「分かった。かなり頑張れば使えると言うことが分かっただけでも朗報だ」

「地道に実験しながら、細かい成果の積み重ねが必要になるけどね」

「魔法ででんき? が作れると分かっただけでもすごいことだぞ。雷は神の怒りだと信じられているからな」

「私はそれを否定してるわけじゃないよ。小さかったら人にも使えるって言ってるだけ」

「そうか、たしかに神を否定すべきではないな。水だとて使いようなのだから」

「そうそう」


お茶会を終える頃にお庭デートの二人が東屋にやってきたので、全員で建屋に戻った。

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