お見合いツアー システィーナ御所 1/2

一同揃って朝食を摂った一行は、今日の予定を確認し合い、クール君でシスティーナ御所に向かった。

事前に場所を秘密にしているために窓を曇りガラスにすると説明されていたため、一行は室内でしばし寛いだり雑談している内に、アオラキのドックに到着した。


「あ、あ、あの大きな物はいったい…」

「あれ、私の御座船。これと同じ型の妖精王陛下の御座船は空の上ね」

「シ、システィーナ嬢。あんな大きな物が船だと?」

「そうだよ。大型船百隻分くらいの荷物が積めて、百人くらいなら部屋もあるから、何年も中で生活出来るよ。だけど大きすぎて使いにくいから、普段は小さめなの使ってるの」

「あの、横に並んでいるのがそうなのか?」

「うん。運ぶ物に応じて使い分けてるの。今乗って来た飛空艇より荷物積めたり人を多く運んだり、用途は色々だね。ここだけじゃなくて他の場所にも置いてあるよ。場所は内緒だけどね」

「…なあシスティーナ嬢、昨日からポンポンと機密のはずの物を見せてくれているが、本当にいいのか?」

「大丈夫だよ。どうしても隠したいことは秘密にさせてもらってるから。それに、ハルトムート殿下は、一生懸命素で話そうとしてくれてるよね。だから私も素で話して、見せられるものは見せることにしたの」

「何もかもお見通しか…。今まで王太子の仮面をかぶり続けていたために素で話すのが難しいが、これからも努力し続けよう」

「ありがとう。じゃあ私のことは、公式の場以外はティナでいいよ。みんなもね」

「感謝する。私はハルトムートで頼む。王太子と呼ばれると仮面を付けてしまいそうなので、敬称は殿下あたりが良いな。では、ティナ嬢の御所とやらを見せてくれるか?」

「うん。気に入ってくれるといいけど」

「ハルトムート殿下、なんだかドキドキして来ましたね」

「お前、今回はアウレールの見合いだぞ」

「そう言いつつ、殿下も顔が楽しそうですよ」

「付添が楽しんではいかんのか?」

「随行人も楽しんでいいですよね?」

「…ほどほどにしろよ」

「はい」


一行がシスティーナ御所に入ると、ランダン王国組はやはり足を止めて固まった。


「ティナ様、場所が秘密なのに、外に出ちゃっていいんですか?」

「残念だけど、ここって大きな部屋の中なんだよ。上を見ると、空じゃないでしょ?」

「あれ、薄曇りじゃなくて天井なんですか? なんか明るいですよ?」

「天井を優しく光らせてあるの。土の天井とかじゃ興ざめでしょ?」

「室内に建物や庭園まで造るとはなぁ…。様式は見たことが無いが、まるで宮殿のようだな」

「宮殿程大きくは無いから御所ね」

「ティナ嬢、個々の建物や庭は、どなたが設計されたのか教えてください!」

「設計施工はアルだね」

「ぜひご教授下さい。僕もこんな庭や建物が作ってみたいです!」

「それでしたらティナに聞いた方が良いかと。すべてティナが好むイメージで作ってありますから」

「ティナ嬢、ぜひ僕にもご教授を!」

「ちょ、待って! アウレール殿下は、自身が好む物の作り方を聞かれて、教授出来る?」

「……好みは感覚だから、難しいと思う」

「でしょ? アルは私の好きなものを山のように見て来てるから、そういった物を組み合わせて作れたんだよ。だからアウレール殿下も、あちこちいっぱい見て参考にして」

「そうか、見て覚えればいいのか」

「じゃあクラウとお庭デートでもしながら、あちこち見て回ったら?」

「…それは、昨日のホーエンツォレルン城内のようになってしまいそうで、クラリッサ嬢に申し訳ない気がします。僕はあちこちに目が行って良さを熱弁してしまい、紳士的な行動が執れなかったんです」

「大丈夫ですわ。私はホーエンツォレルン城もこの御所も大好きですから、昨日のように好きな風景や装飾などを語り合いましょう」

「…いいのかな、そんなことをして」

「これはお見合いですのよ。一生を共にするかもしれない方を知るためのものですわ。互いの本音を隠したまま一生を共になど出来ませんから、まずはお互いが好きな物から教え合いましょう」

「そういうことなら、ぜひ一緒に回りたいな。お互いが好きな物を見て語り合えるなんて、すごく楽しそう」

「じゃあ今日は二人だけでお庭デートに行ったら? 庭は建物が囲ってるから、一方方向に歩けば必ず建物に出る。迷う心配も無いし、あちこちにうちの執事やメイドもいるから、声を掛ければ行きたい場所に案内してくれるよ」

「ティナ様、従者として主をひとりにさせるのは、さすがにまずい気がするのですが…」

「いや、構わんだろう。ここはひとつの大きな部屋の中なのだ。しかもティナ嬢の御所の中。危険など皆無だし、少し声を上げれば近くにいる者に届く。従者が傍にいる必要は無い」

「…出過ぎたことを申しました。ティナ様、お詫び申し上げます」

「従者としての仕事をしようとしたんだから、お詫びの必要なんて無いよ。全く危険が無い場所なんて早々無いから、判断を間違っても仕方ないから」

「…誤判断せぬよう、精進します」

「うん。じゃあクラウ、知ってる場所も多いだろうから、アウレール殿下を案内してあげて」

「分かりましたわ。アウレール殿下、わたくしのお気に入りの場所にご案内してもよろしいかしら?」

「ぜひ頼むよ。クラリッサ嬢の好きな場所を見てみたい」

「では、こちらですわ」


一行は、若い二人が連れ立って庭に降りて行くのを見送った。

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