お見合いツアー お迎え
クラウのお見合いは、意外に早く実現した。
ハルトムート王太子が国の行く末を案じ、奔走した結果だろう。
お見合い初日、ランダン王国の王城中庭上空にクール君が姿を見せると、出迎えたランダン王国重鎮たちは、腰を抜かすほど驚いた。
クール君はインビジブルを解除しただけなのだが、重鎮たちには20m級の空飛ぶ船が突然空中に現れたように見えたからだ。
ハルトムート王子が何とか混乱を鎮め、音も無く着陸したクール君に近付くと、ドアから出て来たのはティナとアルフレート。
今度驚いたのはハルトムートだ。
普通迎えを寄こすと言われれば、執事あたりが来るのが当たり前。
まさか公爵本人が迎えに来るなど、ハルトムートは思ってもみなかった。
しかも登場した二人は、宙を浮いて降りて来たのだ。
重鎮たちは驚いて固まるしかない。
何とか動揺を抑えて挨拶するハルトムートの言葉で、後ろに控えた重鎮たちは公爵本人が迎えに来たのだと気づいた。
本来は執事あたりが迎えに来るのが当然なので、出迎えに重鎮たちの参列は不要なのだが、ハルトムートが空飛ぶ船を間近で見ておくべきだと強く主張して重鎮たちによる出迎えとなっていた。
ハルトムートの主張のおかげで、超大国の公爵の出迎えには何とか格好が付いたと冷や汗を掻いた重鎮たちは、慌てて自己紹介しながら挨拶を交わした。
単なる迎えだからと言って、早々にランダン王国側のお見合いメンバーと共にクール君に乗り込むティナ。
一行の荷物を浮かせて貨物室に放り込み、一行も一言断ってから次々に浮かせて機内に入れた。
ランダン王国の重鎮たちは、唖然としてその様子を見ていた。
だが、ランダン王国側のお見合いメンバーは、別の意味で緊張した。
わざわざ超大国の公爵本人が迎えに来るほど、今回のお見合いを重視していると捉えたのだ。
いざお見合いが始まる時より、よほど緊張したかもしれない。
しかし、その緊張も長くは続かなかった。
一言断られたものの、その意味を理解する前に自分の身体が浮き、飛空艇内に移動させられた。
室内の豪華さにも驚いたが、窓の外には自国の城がどんどん小さくなっていく風景が見え、やがては雲を突き抜けて雲上に達していた。
煌々と太陽の光を浴びる雲海が、自分たちの眼下に続いている。
目に見える光景が信じられず、ランダン王国お見合いメンバーたちは思考停止した。
しばらく窓の外を見て放心していたものの、ティナにお茶を進められ、お茶を口にして平常心を取り戻そうと苦心していると、ティナから『雲が晴れてきたからバンハイムが見えるよ』と教えられ、また思考停止した。
お茶一杯飲でバンハイム。
出来の悪いキャッチコピーのようだが、ランダン王国の面々にとっては、まさにそうだったのだろう。
はるか下に大地や山脈が見える。
あの山脈は、ひょっとして前人未到のはずの大山脈? なぜその大山脈が下に見える? 時折現れる雲が、とんでもない速度で眼下を吹っ飛んでいくのはなぜ?
ランダン王国側の人間は、混乱の極致にあった。
やがて大山脈のひとつを斜めに通り過ぎると、また下は雲海になった。
高速で飛行しているため目が追い付かず、雲海というよりグレーの床のように見えだしたので、やっと視線を室内に戻せば、そこには呆けた同僚の顔。
仮にも一国の王子に仕える者たちが主の前でしていい表情では無いが、その主すら同じ顔をしている。
しばらくは会話も無く互いの顔を見合っていたが、もうすぐ到着とのティナの声にまたびっくり。
分厚い雲の層を抜けると、領都シュタインベルクには小雪が舞っていた。
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