黒くない腹黒さん
「クラウ、かなり婚約に前向きでしたね」
「そうね。シュタインベルク家当主としても、領主としても後継ぎは必要だからね。クラウが言ってたみたいに、国外の王族が婿入りして来るのは、シュタインベルク家にとって結婚後の面倒が減りそうだし。でもクラウ自身相性が合ったらって言ってたから、きちんと自分個人の幸せも見据えてると思うよ」
「うまくいくといいですね」
「そうだねぇ」
「ところで、ハルトムート王子から望まれたのに、なぜ完全には言葉を崩さなかったのですか? クラウに比べると、少しちぐはぐな言葉遣いになってましたよ」
「やっぱアルも気付いたか。あれはね、ハルトムート殿下が、腹の黒くない腹黒さんだったから」
「意味が分かりません」
「腹黒さんの意味は分かるよね?」
「はい。狡猾で、何か悪だくみをしている人と分類しています」
「ずる賢くはないけど賢くて世渡り上手。悪だくみする能力はあるけどあくどくはなり切れなくて、だけど話しながら心の中で計画は立てられる人って感じたの」
「なるほど、それで黒くはないわけですね」
「白くも無いけどね。二度も言葉を崩させようとしたのは、多分自分に親しみを持ってもらうため。二度目はクラウに言ったついでと見せかけて私にも言ってるからね」
「そうなのですか。私には全体的に誠実な話し方だと感じられましたが」
「これも多分だけど、あれは誠実な対応が私たちに受けるだろうと踏んで、誠実な自分を作ったように感じたわ。『妖精は自然の一部』と言ったら、思わず本音が出て『至言かもしれない』って返したの。それは、妖精との接し方を『自然の一部』と言われて心の中で色んな対応方法をシュミレーションしたら、思いの外対応出来そうだったから『うまいこと言ったな』って返しちゃったの。つまり、話しながらそれだけのことを考えるスペックがあるってこと。だけどさすがに能力限界が近くて、私の言葉に感心したと素で返しちゃった。本当ならあそこで、『アドバイスだから真剣に考えてみる』とか言って、一瞬でシュミレーションしたことに気付かせないようにすべきだった」
「一瞬でそこまで読むティナも、大外だと思いますよ。ですが未だに、言葉遣いがちぐはぐだった理由が分かりません」
「言葉遣いを崩せって希望に従おうとして、あなたには怖くて素が出せないって伝えたの」
「なんですかその高等なやり取り。相手の話す言葉の表面的な意味に対して適切な返答や提案をしながら、相手の思考まで読んでこちらの気持ちが伝わるように、言葉に二重の意味を持たせて返したんですか? まるで表と裏で違う会話をしてるみたいじゃないですか」
「いやいや、私がそう感じたってだけ。もし相手が裏で考えてなかったら、こっちの言葉は言葉を崩そうとして頑張ったけど、ちょっと崩しきれなかったって思われるだけだもん」
「…今のお話だと、また疑問が。ティナは『至言』発言の前から言葉遣いがちぐはぐでしたが?」
「相手は一国の王太子殿下だよ? 腹黒貴族に囲まれて王太子してられるんだから、少し警戒してただけだよ」
「あ、ティナが裏に込めた意味、ちゃんと伝わってますね。どうやらハルトムート王子は、黒くない腹黒さんで正解のようです」
「ありゃ、当たっちゃったか。まあその意味が伝わったんなら、今後は作った対応は控えてくれるでしょ」
「忠告の意味まで入ってましたか」
「妖精は自然の一部。口で上手いこと言っても、対応は変わらないよ」
「ハルトムート王子ではありませんが、たしかに上手い表現です。話を聞いていて、私も感心してしまいました」
「向こうが対応間違えたらクラウの幸せに傷が付くかもしれないから、理解してもらおうと咄嗟に出た言葉だったんだけどね。自分でも、意外に上手いこと言ったとか思っちゃった」
「咄嗟だったんですね。ですがいい言葉なので、これからも使いましょう」
「そだね」
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