ハルトムート 3/3
「まあ、それなりには…」
「…人など他者を虐げる者も多い。恐ろしいことになりそうだな」
「なってしまいましたわね。ですがそのおかげで治安も驚くほど向上し、我が領には住民の笑顔が溢れています。領主としては我が手だけで成せていないことに忸怩たる思いもございますが、領民の幸せが第一ですから」
「あの、ハルトムート殿下。どちらかというと、妖精は自然の一部と捉えた方がいいですよ。山の木を伐り過ぎれば地滑りが起きるし、水を汚しすぎれば疫病も発生します。だけど上手に付き合えば、人々に多大な恩恵を与えてくれます」
「…妖精は自然の一部。至言かもしれんな」
「そう捉えておくと付き合いやすいと言うだけです。お話が長くなりましたけど、クラウはハルトムート殿下にお伝えすることがもうひとつなかった?」
「そうでしたわ。ご使者をいただいた件ですが、本来ならこちらから使者をお出ししてのお返事が道理。ですが冬場ですので、こちらから使者立てするとお返事が遅くなってしまいます。ぶしつけではございますが、今お返事をお伝えしてもよろしいでしょうか?」
「今話せているのに返事を聞かず使者を待つなど、無駄が多すぎる。ぜひお聞かせ願いたい」
「ありがとう存じます。では、ハルトムート王太子殿下から頂いた第四王子殿下とのご婚約の件、ご寛容にも正式なお返事は第四王子殿下とお会いしてからでもよいとのことでしたので、そのお気持ちに甘えさせてくださいませ」
「おお、ありがたい! 会わずに断られる公算が大きいと思っていたのだ」
「実はわたくしにとっても、ハルトムート殿下のお申し出はありがたいのです。わたくしは妖精王国唯一の自治領領主なために、かなり妖精王国に近しい存在となります。ですからバンハイムのどなたかと婚姻してしまうと、バンハイムの勢力バランスが崩れてしまいます。かといって領内の者と婚姻すれば、今度は領内の勢力バランスがおかしくなります。幸いなことに、妖精王国はわたくしの意思で結婚相手を決めて良いと言ってくれていますので、第四王子殿下とわたくしの相性がよろしければ、ご婚約をお受けしたいと考えておりますの」
「なんともありがたいことだ。では冬が明けたら、第四王子をそちらに向かわせよう」
「お話し中に割って入って申し訳ないですが、お会いになる二人は互いに高い身分ある身。移動にかかる時間がもったいないので、往来の件は妖精王国が操縦者付きで飛空艇を貸し出そうかと考えています。ハルトムート殿下はどうお考えですか?」
「なんと!? まさか、東都でお会いした折にシスティーナ嬢が使っておられた空飛ぶ乗り物をお貸しいただけるのか!? それはとんでもなくありがたい…あ、しかし今回は当家からシュタインベルク家への申し込み。こちらから出向くのが筋では?」
「その誠意だけで充分でしょう。私やクラウも、公式な儀礼的行事でもない限り、非効率なことは望んでいませんから。どうせ私もクラウに付き添いますし。なんでしたら、お見合い会場もご用意しましょうか?」
「大変に助かる。弟だけ向かわせるわけにもいかぬから、それなりの身分の介添え人も必要になる。往復すれば一か月以上移動に費やすので、誰を付き添いにすべきか悩んでいたのだ。もし移動日数が短縮出来れば、私が付き添いになることも可能だからな」
「移動日数ではなく移動時間ですが、片道一時間ほどです」
「……は?」
「私の飛空艇は、一時間で1,000kmほど移動出来ます」
「……もう、想像することすら無理なのだが?」
「まあ、乗れば実感出来ますよ。だから、移動の計画は片道一時間と見て立ててください」
「…承知した。何としてでも私が付添人になる」
「付添人の目的が変わってません?」
「…見合いの折は、きちんと付添人するから大丈夫だ」
「まあいいですけど。…お見合い会場にご希望はありますか?」
「それは弟が婿入りする可能性があるのだから、領都シュタインベルクが良いと思うが?」
「クラウはそれでいい?」
「当然我が領都で歓待すべきなのですが、王子殿下のお見合い場所として考えると、少々優雅さに欠けるかもしれませんわ」
「あ、じゃあ私の御所使う?」
「あそこなら申し分ございませんわね」
「…システィーナ嬢は、御所までお持ちなのか?」
「妖精が遊びで造っちゃたんですよ。活用しようにも秘密の場所なんで、普段は誰もいませんね」
「待ってくれ。秘密の場所に他国の者を入れても良いのか?」
「道中が分からなければ、問題無いです。空を飛ぶ以外来られませんし。それに、活用しないと作ってくれた妖精に悪いですから」
「……秘密の御所というのも興味は尽きんが、王太子としては新首都も見てみたい。我儘すぎるだろうか?」
「そんなことは無いですよ。だけど首都は広いから、領都シュタインベルク、私の御所、新首都を視察するとなると、日程的に五日ほど必要になりますね」
「他国に視察、いや、見合いに行ってたった五日の行程など、ありえん短さだぞ。我が国の領内ですら、往復一週間かかる場所も多い」
「じゃあ、一週間あれば堪能してもらえるかな」
「必ず一週間もぎ取る。連絡はどうすればよいだろうか?」
「ハルトムート殿下の執務机に、妖精のランタンを届けてもらいます。ランタンを点灯すれば、私の執事であるアルフレートと映像で会話出来ます」
「何から何までかたじけない」
「いいえ。私にとってクラウは大切な友人なので、お手伝いは当然です」
「ありがとうティナ」
「どういたしまして。ハルトムート殿下、突然の会談申し込みにもかかわらず長々とお付き合いいただき、ありがとうございました」
「こちらこそご助力感謝する。クラリッサ嬢も、前向きなご回答に感謝する」
「では、また次回お会いする時まで。これにて失礼します」
「ああ、その時を楽しみにしている」
「わたくしも、失礼いたします」
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