ハルトムート 1/3

「分かった。アル、ハルトムート王太子に繋いでくれる?」

「了解です。どうぞ」

「ハルトムート王太子殿下、システィーナ=ホーエンツォレルンです。突然のお声がけ申し訳ございませんが、少しお時間を頂戴出来ませんか?」

「お? あ、ホーエンツォレルン公! 構わない。というかお話したかったのだ。先日のスタンピードの折は、大変お世話になった。国民を代表して、お礼申し上げる」

「すでにご使者による謝辞をいただいておりますので、何度もお礼を言われますと、却って恐縮してしまいます。どうかその辺でお許しください。また、ご招待いただいたにもかかわらず、お受け出来ずに申し訳ございませんでした」

「こちらこそ、ホーエンツォレルン公のご都合も考えずに招待しようとしてしまって申し訳なかった。新たな属国を得られて体制づくりなどされておれば、多忙は当然。ご自愛されよ」

「ご厚情、ありがとう存じます」

「いや、一国の体制づくりなど、考えただけで恐ろしくなるからな。ところで、以前とはずいぶん話し方が違うが、これは公式な会談なのか?」

「いえ、そうではございません。実はシュタインベルクからの映像会談の申し込みをいたしたく、わたくしが仲介者となりますので、礼を尽くしたく存じます」

「シュタインベルクか。こちらから婚約の打診を入れさせていただいたな。映像とやらの会談はこちらからお願いしたいくらいだ。だがその前に、ホーエンツォレルン公の話し方は以前のようにはしていただけないだろうか? ホーエンツォレルン公は、我が国をスタンピードから救っていただいた英雄。しかも二つも属国を有する妖精王国の公爵ともなれば、そちらが格上となるぞ」

「そのように認識いただいているのでしたら、少し崩させていただきます。正直なところ、結構疲れますので」

「ぜひお願いする」

「分かりました。それでは、シュタインベルク侯爵と繋いでもいいですか?」

「承知した。お願いする」

「ではシュタインベルク侯爵、繋がりましたのでご挨拶を」

「はい。妖精王国所属シュタインベルク自治領領主、クラリッサ・シュタインベルクが、ランダン王国ハルトムート王太子殿下にご挨拶申し上げます。この度はぶしつけな映像による会談をお許しいただき、感謝申し上げます」

「ご丁寧な挨拶痛み入る。ハルトムート・ランダンだ。だが、会談を始める前にホーエンツォレルン公にひとつ聞かせていただきたい。妖精王国では、厳格な宮廷儀礼を守っておられるのであろうか?」

「いいえ。妖精は自由を尊びますので、上位者に対しても相手に不快感を与えない限り、話し方は自由です。今回の会談はお相手が人族国家の王太子殿下ですから、失礼が無いようにと儀礼を重んじているだけです」

「ならば妖精王国の流儀でお願いしたい。正直なところ、お若い二人にそのような言葉遣いをされては、違和感が大きすぎる。それに、私もあまり儀礼的な話し方は得意ではないので、ボロが出てしまいそうなのだ」

「よろしいのですか? 妖精王国の言葉遣いですと、対等な話し方になりますよ?」

「その方が助かるのだが」

「分かりました。では、私のことはシスティーナと呼んでください。クラウも普段通りでいい?」

「わたくしはかまいませんが、王太子殿下に対しては不敬になりませんか?」

「不敬などとは思わん。実は先ほどから外国語を話されているようで、理解するのに頭痛がしそうだ」

「ずいぶんぶっちゃけましたね。では、私は楽なので、これで行かせてもらいます。クラウはどうする?」

「わたくしも普段の話し方でお願いしますわ。王太子殿下、わたくしはクラリッサとお呼びくださいまし」

「ありがたい。私はハルトムートで頼む」

「承りましたわ。ではハルトムート殿下、わたくしからご連絡したいことがあるのですが、お伝えしてもよろしいですか?」

「ああ、頼む」

「実は先日、ハルトムート殿下の命を受けたご使者の方が、我が領を訪れてくださいました。ご口上とお手紙はきちんと頂戴しましたが、冬場の長旅による疲れで、お倒れになってしまいましたの。診断した医師のお話では、過労と栄養失調のため、体重が戻るまでは休ませた方が良いとのことでした。こちらから使者を立ててお知らせしようと考えましたが、システィーナ公爵のご厚意で、映像会談を申し込んでいただくことになりましたの」

「なんと! 我が方の使者がご迷惑をお掛けして申し訳ない」

「謝罪いただくなどとんでもございませんわ。シュタインベルク領の領都はかなり高い標高にございますので、平地より冬は積雪も多く気温も低いのです。このような辺境にまで足を運んでいただいたために体調を崩され、こちらこそ申し訳なく思っております」

「いや、そちらの冬がどのようなものか知らずに使者を送ってしまった私のミスだ。ご迷惑をお掛けするが、使者を養生させてやってはくれまいか?」

「お任せくださいまし。当家の大切なお客人ですから、元気になっていただくまでしっかりとお世話させていただきますわ」

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