え、シャルト共和国に巡礼者?

商業国カユタヤ、その国内で急速に勢力を拡大する集団があった。

『妖精教』。その新たな宗教集団は、妖精王国の属国であるシャルト共和国内より早く勢力を拡大していった。


シャルト王国では、旧帝国時代の似非宗教は上層部が犯罪者として断罪されたものの、実際の冠婚葬祭を担っていた実務担当者や教会はそのまま残っていた。


国を捨てようとした皇帝を亜神として崇めることは禁止され、宗教名は妖精教と改まってはいたものの、住民の冠婚葬祭にはさしたる影響が無かった。

それどころか、強制的な教会への喜捨や労働奉仕が無くなったため、住民の宗教離れが進んでしまっていた。


今回インフルエンザに感染して助けられた者は、妖精王国に助けられたと認識して改めて妖精を信奉することになったが、その数は国全体に感染が広まった隣国カユタヤより、かなり少なかった。

シャルト共和国では感染爆発初期に医療チームが派遣され、ティナの強硬策で感染予防も早期に広まったため、感染の広がりが抑えられた結果、妖精に感謝する回復患者も少なかったからだ。


対してカユタヤでは、国全体に蔓延してからの医療チーム派遣。

実際に医療チームが治療した患者数は、大国で国民も五倍ほどいるシャルト共和国の、実に七倍にもなっていた。


派遣された医療チームは、妖精が毎日作ってくれた特効薬を持参し、いきなり現れたかと思うとパッと消える。

妖精の加護無くして出来ることではない。

しかも処方された特効薬は、服用後一時間もしないうちに全快してしまうような効き目。そして治療費は無料。

国の権力者たちの強制すら撥ね退けて各戸を廻って行くのに、重傷者の存在を聞くと、次の訪問先に猶予を貰って先に診てくれる。


これだけ信奉に値する理由があれば、誰だって妖精を信奉してしまう。

おかげで妖精教は、カユタヤで爆発的に信者を増やしてしまっていた。


「ティナ。隣国カユタヤからシャルト共和国に入国する巡礼者数が、急速に増えてます。何か対策すべきですか?」

「は? 巡礼者って、シャルト共和国に聖地なんて無いよね?」

「ですが入国理由が巡礼なんですよ。各領にある充電基地の塔を巡るようです」

「…なんでそんなことに?」

「医療チームの派遣が原因のようです。死病から回復させていただいた妖精に感謝を捧げたいと、塔の前で祈っていますね」

「おおう…。この時代、旅するだけでも大変なのに、各領の充電塔を廻るなんて苦行に近いよ」

「カユタヤの商隊に同行を願い出て入国し、領間は巡礼者で集団を作って移動するようです」

「せっかく助かったのに、なんでわざわざ苦しい旅をするのよ。こっちはそんなこと望んでないのに…」

「どうします?」

「……カユタヤとの国境近くに、ドローンや飛空艇の拠点になるようなおっきな充電塔建てよう。周りにはカプセルホテル型の宿泊施設や生活必需品の商店、大衆浴場も建てて。運営は、ローテーションでデミちゃんズに頼もう」

「了解。港の工事現場からドローンを廻しますので、設計とデザインをお願いします」

「うん、今から描くよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る