突き抜けたおバカは、見ていて可哀想

問題の表敬訪問団は、翌日夕刻になって首都ルーデに到着した。

表敬訪問であれば、一旦は町の宿にでも落ち着き、改めて使者を出して相手と予定を合わせてからの訪問となるはずが、この一団はいきなり城を訪れた。

事前に約束されていれば城での宿泊や歓待もあるが、今回のような場合は、国同士の慣例を無視したかなり無礼な行動である。


城の城門では、事前通達が無かったために確認作業の間待たされたことに一行は憤慨。

城に入ると歓迎の晩餐を要求したため、国同士の慣例を無視する者など表敬訪問団とは認められないと返されてさらに憤慨。

大人しく出来ないなら国外退去を命じるとまで言われ、しぶしぶ宛がわれた部屋で休んだ。


そして翌日、予定を無理に空けたアンネリースとティナとの面談となった。

だが、挨拶もそこそこに対応についての不満を垂れ流し出した団の代表に、ティナたちは呆れた。


『女や子どもに国の重鎮など務まるわけがない。我々への対応すらまともに出来ないではないか』

この発言で切れたティナは、逆襲を始めた。


「お前たちが表敬訪問の使節団だと? セルビの悪評を広めていることにすら気付かんとは、セルビはよほど人材不足とみえる」

「な!? 無礼な! 我は魔導王国セルビの魔導王一族なるぞ!」

「こちらに散々無礼を働いておいて、そのことにすら気付かん愚か者ではないか。今お前の前にいるのは、大国であるシャルト共和国の国主と、宗主国の外務卿だぞ? この意味すら理解出来ておらんだろう」

「何が大国と宗主国だ! 魔導では我々の足元にも及ばん弱者ではないか! その貧弱な魔力は何だ!」

「いちいち怒鳴らんと話せんのか? 難儀な頭の病を患っておるようだな。しかも魔力が貧弱だと? 制御も出来ずに魔力を垂れ流すお前こそ弱者ではないか。相手の強さくらい計れんと、早死にするぞ」

「もうよいわ! 魔導王一族を侮ったこと、死んで詫びろ!!」

「その小さな火はなんだ? 火遊びでもするのか?」

「死ねっ!!」

「そんなものでどうやって死ぬのだ? こちらに届く前に消えてしまったではないか」

「なっ!? どういうことだ!? なぜ消える!?」

「だから言っているではないか。強者の前で弱者が魔法を使うには、強者が許さん限り無理だぞ。まさかと思うか、お前の国では他者の魔法すら消せんのか?」

「ば、ばかな…」

「ほれ、もう一度火を出してみよ。後ろに控える者も一緒に頑張れ。強者なら、弱者の魔法発動すら不能に出来るのだぞ?」

「くそ! なぜ発動せん!?」

「そ、そんなばかな…」

「な、なぜっ!?」

「今、説明してやっただろうが。理解力が無いのか?」

「ティナ様、愚者に理解を求めるのは、少々酷かと」

「ああ、そこまで阿呆なのか。では、これなら分かるか?」

「ひっ!? な、な、なんだその魔力は!?」

「私の魔力を、ほんの少し漏らしただけだぞ。少しは立場が理解出来たか?」

「馬鹿な、あり得ん!!」

「これでも理解できんのか…。さて、困ったな」

「ティナ様、理解を求める必要はございませんよ。この者たちの命運は、もう尽きているのですから」

「だがなぁ。さすがに哀れすぎんか?」

「普通一国の外務卿を殺そうとしたら、死罪は当然ですよ」

「だが、愚かすぎて哀れみすら感じてしまうレベルだぞ? 先ほどの火を見たであろう。あんなものでは赤子すら死なんぞ。しかも他国の城で宗主国を代表する外務卿に対して使おうとするなど、殺してくださいと言っておるようなものではないか」

「おそらく、それすら理解出来ていないのかと…」

「哀れよのう…。よし、この者たちは罪人印を刻んだ上で国外追放にしてやろう」

「いくらお優しいティナ様でも、さすがにそれでは甘すぎませんか?」

「しかしなぁ…。貴人に対して幼児がろうそくの火を近付けようとした程度だぞ?」

「そうはおっしゃいますが、こ奴らは大人で、しかも表敬訪問の使節団を名乗っているのですよ?」

「だが、先ほどの理解力の無さを見たであろう? あれでは幼児にすら劣るぞ」

「それはそうなのですが……。分かりました。今回は、貴人に対する子どものおいたとして処理しましょう」

「それでよい」


ティナの魔法で、途中から身動きどころか口すらきけなくされていた使節団一行は、部屋にいたメイド姿のデミ・ヒューマンたちに連行されて行った。


兵に連行させなかったのは、ティナがインプラント通信で指示したからだ。

馬鹿にしていた女性という存在に連行され、暴れようにもレベルが上がっているデミ・ヒューマンの力で拘束されては抜け出せない。

馬鹿にしていたはずの若い女性のメイドにすら敵わないと自覚させる、死体蹴りのような追撃だった。


「ティナ。アンネリースと二人して、かなり遊んでましたね?」

「いやぁ…。だってあそこまで阿呆だと、あれくらいしないと立場を理解しないでしょ」

「脅して遊んでいるのは分かりましたが、なぜ処刑しなかったのですか?」

「だって、あれでも表敬訪問の使節団名乗ってたんだよ。送り出した側も同程度の阿呆なら、表敬訪問の使節団を殺されたとか文句言いそうじゃない?」

「…あり得るかもしれませんね。でも、国外に追放して終わりではないんですよね?」

「ちゃんと国元まで帰ってもらって、向こうの王族に実力差を説明させなきゃ。その後王都や近隣国に、さっきの出来事を映像で広めてあげよう」

「…メイドに連行させてプライドをズタズタにした後、国に逃げ帰っても針の筵ですか。少し溜飲が下がりました」

「そこまでやっても少しなの!?」

「ティナを馬鹿にされましたからね」

「おう…。私を馬鹿にされるのって、ひょっとしてみんなにとっては…」

「起爆命令ですね」

「Oh…」

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