医療チーム派遣

インフルエンザの流行は、シャルト共和国では減少傾向になったものの、隣国カユタヤでは依然猛威を振るっていた。

今や感染は国全体にまで広がり、死者数も日に日に増えて行く。

住民たちは感染を恐れて家に閉じこもり、商業港であるはずの首都カユタヤの町中は、活気無く閑散としていた。


そんな町中に妖精王国所属を名乗る医師たちが突然現れ、インフルエンザ専門に各戸を順に往診すると宣言した。


実はこの医師たち、全員がデミ・ヒューマン。

国家としての医療チーム派遣だとカユタヤの重鎮たちを優先せざるを得ないため、わざわざ民間の有志医療チームとして一般住民の治療を目的に掲げての首都入りだ。


シャルト共和国内の感染者数が減少を続けたことと、アルが急増したピコマシンの新規ラインが稼働したことで、特効薬をカユタヤに廻せるだけの余裕が出来、ホーエンツォレルン領のデミヒューマンたちによる医療チーム派遣が実現したのだ。


医師チームはエリアを分担して各家庭を回り、感染者を判別して特効薬を投与していく。

感染判定はインビジブル機能の無い医療用ドローンだ。


もちろん小型中型のドローンもインビジブル状態で警護に着いているため、特効薬の強奪や順番を無視した有力者宅への往診強制などは許さない。

そんなことをすればいきなり×マークをくらい、その映像が町の各所で流れることになる。


しばらく往診を続けていると兵たちに囲まれて城への同行を求められたが、医師たちは一般人の治療用という約束で妖精から特効薬を譲ってもらっているからと、同行を拒否。

押し問答になりそうなところで警護のドローンたちが姿を現し、しみしみ×マークで兵を撃退。即座にその映像を公開した。


権力者でさえいうことを聞かせられない医療チームは、次々に各戸を訪問して治療を続けて行った。


自分たちより一般人を優先され、向かわせた兵まで撃退された権力者たちは、シャルト共和国に抗議しようとして気付いた。

兵を攻撃したのは妖精であってシャルト共和国ではない。

同行を拒否した医師たちは妖精王国所属と名乗っている。

つまり、この医療チーム派遣に関しては、シャルト共和国は無関係なのだ。


ならば抗議先は妖精王国となるが、そんな国は連絡先さえ無い。

出来ることと言えば、妖精王国の属国であるシャルト共和国に仲介を依頼する程度だ。


兵たちもドローンを恐れて医療チームには手が出せなくなり、遠くで兵たちに監視されながら治療を続けていた医師たちは、特効薬が尽きたので新たに作ってもらっている分を取りに戻ると宣言して、その場でいきなり姿を消した。


単に隣にいたインビジブルドローンに触れて姿が見えなくなっただけだが、遠巻きにしていた兵たちには、一瞬でどこかに行ってしまったかのように見えた。


医療チームはインビジブル状態で上空に待機していたキャリー君に搭乗すると、ホーエンツォレルン城に戻った。

出迎えたティナに労をねぎらわれ、ドローンはしみしみ液や治療に使った医療品の補充に、デミ・ヒューマンたちはティナと共にお風呂に向かった。


ティナとの入浴は、女性デミ・ヒューマンへのご褒美だ。

そして男性には、ティナを抱っこする権利が与えられた。


ちなみにこのご褒美、医療チームとして派遣されたデミ・ヒューマンたちからの要望だったりする。


この医療チーム派遣とご褒美は、カユタヤのインフルエンザ感染者が落ち着くまで、四週間継続されることになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る