教育は大切

「新規感染者数、何とか減少傾向に転じましたね」

「まだ気を緩められないけど、やっといい報告が聞けたよ。特効薬の在庫はどう?」

「初期の備蓄分は使ってしまいましたから、やっと三十五本です」

「少な! でもまあ、無いよりかはましか」

「精神的ストレスが検出されてますよ」

「仕方ないよ。今回は初動ミスっちゃったから」

「感染拡大抑止には、かなりの効果が出ていると思いますが?」

「今の状況作るために、強引な手を使ったからね。本当なら、感染予防策を教える前に、自分の身を守るためだって理解出来るよう、丁寧に説明すべきだったんだよ。だけど私は、予防策が行われずに感染が拡大してから、住民が予防策の意味や意義を理解してないって初めて気づいた」

「目的や理由を、一通り説明はしていましたよ?」

「全然足りてなかったから予防策を実行してくれなかったのよ。住民たちの理解力を見誤ってたの」

「感染拡大の主因はそこでしたか」

「主因は教育の不備。あの説明を理解できるだけの知識を与えていなかったから」

「……ひょっとしてですが、シュタインベルクの廃村復興初期から学舎を始めていたのは、それが理由ですか?」

「それもあるけど、将来の選択肢を増やすのも目的だよ。まあつまり、私は住民の理解力不足を分かってたはずなのに、これだけで分かるだろうと説明を端折った。大失敗だよ。その失敗のせいで、この後が大変そうなんだよね」

「たとえ意味や意義を理解していなくても、感染が収束すれば終わりではないですか?」

「今回住民を脅すような手を使っちゃったから、住民は妖精王国に対して不信感を持ったと思うよ」

「感染予防の手順を守らずに感染拡大を引き起こし、映像で脅されたことで感染拡大が抑制されたのですから、自分たちが助けられたのでしょう? なぜ妖精王国に不信感を抱くんですか?」

「そう考えられるのは、ある程度の教育を受けて、客観的に状況を捉えられる人だけだよ。基本的な教育受けてない人は自分の感情で物事考えちゃうから、自分は悪いことをしてないのに、妖精王国は自分たちまで監視してるって思うんじゃないかな」

「自分たちが助けられているのにですか? 不条理です」

「不条理だと判断出来るだけの知識が与えられてないんだよ」

「…ティナはどう対処するつもりですか?」

「住民たちのための政治を、地道にやってくしかないだろうね。今更教育受けさせるなんて無理だろうし、真っ向から間違ってるなんて指摘したら、恥をかかされたとか都合の悪いことを隠そうとしてるなんて言い出しかねないんだよ。で、周りも同じような知識レベルだと、一緒になって騒ぎ出す」

「間違いを指摘しても間違いだと気づくだけの知識がないから、自分の考えを優先させて相手を悪者にする? しかもその間違いは、同じような知識レベルの者たちに伝播する。…知識不足って、かなり恐ろしいですね」

「そうなんだよ。まあ私のミスだから、後始末は自分でしなきゃね」

「……あの移住村周辺の町や村に元奴隷たちの境遇を広めたのも、ひょっとして同情を買って優しく接してもらうためだけではない?」

「お、正解! 移住者には家や衣服を与えて畑まで貸し出すのに、自分たちには何も与えてもらえないなんておかしな判断する人もいるだろうから、移住者はこんなに苦しい思いをして来たんだから家や服を与えられたんだって理解してもらおうと思って」

「……事前に情報を与えて、誤判断を抑制したわけですか。そこまで考えなきゃいけないなんて、為政者ってほんとに大変ですね」

「だよねぇ。だから私はクラウを尊敬してるの。そして時々は休ませてあげたい」

「その割には、シュタインベルク女王国なんて構想してますよね?」

「あれはただの夢想だよ。クラウがシュタインベルクを離れるとは思えないから、根本部分で現実不可能。だがらクラウが女王になって国を纏めたら、きっと素晴らしい国になるだろうって夢見てるだけだよ」

「じゃあ今作ってる新首都はどうするんですか? デミ・ヒューマンをトップに据えるか、代官の中から国家元首を選出する気ですか?」

「…」

「今、目を逸らしましたね!? 白状しなさい!」

「…バンハイム、ランダン王国の王太子にあげてもいいかなって」

「何を無茶なことを! シュタインベルクが孤立化しますよ!?」

「第四王子とクラウが結婚したらあげてもいいかなって話。その時は王弟殿下の婿入り先だから、自治領として存続出来るでしょ」

「この幼女、ほんと無茶苦茶です。国をプレゼントするとか、アホの子ですか?」

「バンハイムは、妖精王国の属国なんだよ?」

「…宗主国の決定次第と言いたいんですか? さすがに無茶が過ぎますよ」

「クラウが第四王子気に入って結婚したらだって」

「それって、クラウがバンハイムの命運握っちゃってるじゃないですか。このことを知ったら、クラウの胃に穴が開きますよ」

「言わないよ?」

「…ひょっとして、シュタインベルクの地位向上が目的ですか?」

「あ、バレた」

「どこの世界に、結婚のご祝儀みたいに国をあげちゃう人がいるんですか!?」

「ここ」

「自分で自分を指差さない!」

「ごめんごめん。おバカな行動する住民が出そうでストレス感じてたから、ちょっと冗談話に付き合ってもらったの。おかげで精神復活したよ」

「……確かにストレス反応は無くなってますが、本当に冗談なんですよね?」

「さあ? たくさんある未来の内の、ひとつかもしれないね」

「怖いので止めてください」

「はーい」

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