婚姻外交

「ティナ、ランダン王国からクラウに縁談を申し入れようとする動きがあります」

「なぬっ!? クラウはシュタインベルクの領主なんだから、嫁入りは難しいでしょ!?」

「ランダン王国第四王子が、シュタインベルクに婿入りする内容ですね」

「おおう…。クラウもお年頃だから、そういう話が出るのは当たり前か。第四王子ってことは、砂糖や綿製品の製造元であるシュタインベルクとランダン王国を親密化させる政略目的だよね。政略としてはいい手だけど、相手の性格とか境遇は分かる?」

「この話を主導しているのは、王太子ですね。妖精王国との関係を強化しないと、国の発展でバンハイムに置いていかれると話しています。第四王子は側室の子で、現在十四歳。他家の貴族からは、優しいが指導力やカリスマ性が無く、絵ばかり描いている王子との評価が多いです。ドローンの収集した映像でも、絵を描いていたり年下の子どもたちを可愛がっていますね。映像はこちらです」

「うわぁ。王子様するには、大変そうな性格に見えるね」

「…何からそう判断したのですか?」

「表情の出し方。私の勝手な持論だけど、人って表情の出し方である程度性格が分かると思うの」

「顔つきではなく表情の出し方ですか。おもしろい説ですね」

「表情って、ある程度感情に連動してるでしょ。だから自然に出て来た表情と作った表情には、違いがあると感じるの。貴族が微笑み張り付けてるのは、表情から感情を読まれることを避けてるからでしょ? それほど表情には感情が出やすいってことだから」

「大量の映像データがあるので、時間がある時に分類してみましょう」

「私の中でもそんなに確実な物じゃないから、有効性は疑問だよ?」

「それでもかまいません。視覚情報から相手の性格をある程度類別出来る可能性があるなら、研究してみたいですね」

「ほどほどにね。話が脱線してるから本筋に戻すけど、王子様なのに今まで婚約はしてなかったの?」

「第四王子自身も側室もおっとりした性格らしく、側室の実家も権力欲が無い弱小貴族なため、他家からは婚約しても旨味の無い王子と見られているようです」

「おっとり優しい性格なんて、王族としては生きづらそう。婚約申し込みは、王太子から強制されてるの?」

「いいえ。性格的に温厚すぎて、兄弟姉妹たちから心配されたり世話を焼かれている過去映像がいくつもあります」

「あはは。普通王族同士なら支持勢力とかの絡みで親族であっても一線を引いた対応になりそうなのに、相手から親族としての情を引き出すなんて、ある意味才能なのかも」

「変わった才能の持ち主ですね」

「たまにいるんだよ。他者に警戒心を与えず、知らず知らずの内に庇護したくなるタイプの人って。でも、本当にそういうタイプの人なら、クラウも気を張らずに付き合い出来そう。だけど判断するのはクラウだから、私は口出ししない方がいいな」

「では、この件については静観ですか?」

「…クラウの判断材料になるように、中立的な立場で第四王子の行動を記録しておいて。先入観与えないように、適切な時期に情報提供しよう」

「了解です」

「…そういえばさ、クラウよりユーリアさんやカーヤさんの方が適齢期ぎりぎりだよね? 話来てないのかな?」

「たくさん来てますよ。特にバンハイムが属国になってからは、他領の代官一族からの縁談申し込みが多くなってます」

「クラウにじゃなくて?」

「クラウは自身が妖精王国の侯爵位を持ってますから、たとえ相手が代官本人でも、属領の代官と自治領の領主では、爵位も格も違います。属国になった当初は男尊女卑な思考で申し込んできた者もいましたが、一蹴されていますね」

「そうだったのか…。ユーリアさんやカーヤさんは今やシュタインベルクの重鎮だから、嫁に行かれるのは厳しいよね」

「当人たちもシュタインベルクを出る気は無いようですよ。直接個人に来た縁談も、シュタインベルク家から断りを入れてもらってます」

「およ? 結婚したくないのかな?」

「結婚願望はあるようですが、今の生活が充実しすぎていて、仕事を続けることを喜んでくれる相手を探そうと二人で話していますね」

「政略なら、仕事を続けてもらった方が相手にとっても都合よさそうじゃない?」

「自分たちを愛し、自分たちのために仕事を続けることを望んでくれる相手がいいそうです」

「まあそれが理想だけど、この時代の考え方だと難しそうだよね」

「そのためにレベルを上げて、肉体年齢を若い状態で維持しつつ、ゆっくり探そうとの結論みたいですよ」

「…そういう話、女子会の時には私にしてくれなかったなぁ。ちょっと寂しいかも」

「ティナ、自分の外見、忘れてませんか?」

「……幼女にする話じゃないのは分かるけど、中身は違うのに」

「ユーリアとカーヤは、ティナを人ではなく妖精のように見ている言動が何度か確認されていますから、恋愛関係は話そうとしないだけでは?」

「私、実年齢十一歳だし、中身は人間のおばちゃんのつもりだもん!」

「その姿で言われましても…。大体、おばちゃんは『だもん』言いません」

「くっ、精神が肉体に引っ張られてるのか? 無意識に使っちゃってた。レベル上げ過ぎの弊害がこんなとこにも…」

「自業自得ですね」

「うぐぅ…」

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