解放奴隷、移住
昨晩キャリー君の艦長室で眠ったティナは、すっきりと目覚めていた。
今日は五百人分の移動があるので、身支度を整えてからしっかりと食事を摂り、六隻の船に向かった。
船では元奴隷たちが朝食を終えて待機していたので、改めて今日の予定を説明してから、インビジブルを解除した空荷のキャリー君のフライトデッキに移乗してもらった。
甲板の高さを合わせるためにキャリー君も着水しているので、奴隷たちから見れば大きな鉄の船に見えるだろう。
キャリー君は200m級の船なので五百人も乗ると少々狭いが、ダーナにはインビジブル機能が無い上に船体が大きすぎるため、上空を通過する国がパニックになりかねない。
従って、キャリー君で移動するしかないのだ。
移動時間が一時間少々なので、狭いのは少しの間辛抱してもらおう。
元奴隷たちは金属製の船に興味津々だが、デッキを開放したままでは高速を出せない。
残念ながら景色を見ながらの空の旅は、体験させられない。
金属の壁と天井に覆われてしまったデッキ部だが、高さがあるので圧迫感は感じないだろう。
しかも装備されている加速度キャンセラーが優秀なので、船が動いていることさえ感じないはずだ。
予定通り移住先の近くまで来たキャリー君は、減速後インビジブルを解いてフライトデッキを開放した。
乗っていた移住者たちは驚いた。
出発したのは海の上だったのに、わずか一時間で海が見えない内陸部まで移動していたからだ。
実際には1,000kmほど移動しているのだが、移住者たちにとっては、全く揺れることなく内陸部まで移動出来ただけでも驚異的だったのだ。
おそらく空中を飛んで移動したことにさえ気付いてはいないだろう。
そしてキャリー君を降りてからも、驚愕の連続が待っていた。
まず出迎えられたのは、百名近いデミ・ヒューマンたち。
男性は執事服、女性はメイド服で統一された衣装で整列した若い男女に出迎えられ、どこかの貴族屋敷にでも来てしまったのかと思考が空転した。
ティナに宥められて説明を聞くと、全員が移住者たちを出迎えに来た者たちだと言う。
自分たちをわざわざ出迎えるために執事やメイドを勢ぞろいさせることなどありえない立場だった元奴隷たちは、我が身に起こったことが信じられなかった。
半ば上の空でティナの話を聞いていた移住者たちは、聞き逃しかけた言葉に引っかかりを覚え、また驚愕することになった。
『整列してるのは皆私の家人だから、安心して』
徐々に言葉の意味が浸透してくると、勢ぞろいした者たちの主人がティナだということに気付く。
昨日今日と奴隷身分の自分たちに親しげに話しかけ、率先して動いていたティナがこの大勢の主。
自分たちはどれほどの不敬を働いていたのかと、移住者たちは焦った。
だがティナは全く気にした様子もなく、集まっている者たちに移住者たちを入居する家まで案内させる気らしい。
呆然としている間に、メイドや執事一名に対して移住者六人が割り振られ、ぞろぞろと村の方に向かって歩き出した。
ティナの言っている言葉は分かる。だが言われた内容がありえない。
自分たちが移住するための新築の家に案内する?
家は自分たちの物?
家の土地や畑は借地だが、最初の収穫を迎えるまでは無料貸し出し?
とりあえず生活出来るように家具や衣服は無料で準備してある?
食事は朝昼晩三食、自分で食事を作れるようになるまでは、作って配給される?
収穫がお金になるまでは、きちんと生活出来るように無償で支援する?
最初の収入を得るまでは、一律給金が支給される?
読み書きが出来ないなら、無料の学舎で教えてくれる?
耕作の仕方は専任の者が丁寧に指導してくれる?
平民身分だから、必要以上に他者にへりくだるな?
分からないことは先導している者にどんどん聞け?
生活していて困ったことがあったら、村長を住まわせるからそいつに相談しろ?
隣町と交流して、彼女作って結婚しろ?
どれひとつとっても、これまでの生活と違い過ぎて、自分のことだとはまったく思えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます