報復は苛烈

その後のティナの行動は、アルにとって予想以上のものだった。

上陸した所属不明の兵たちの前に姿を現したティナは、ティナを最初の獲物と狙う兵たちを敵認定して屠っていった。


敵の脊髄に光の矢を撃ちこむことで的確に破壊。

アルに脳内をスキャンさせ、奴隷とそうでない者を判別。

奴隷以外をドローンと共に殲滅していった。


敵側人数はおよそ千五百人で、内五百人ほどが奴隷。

定員の半分しか乗船していなかったのは、捕まえた獲物(人間)と略奪品を乗せるスペースを確保するためだろう。


戦闘自体は二十分以内に終わったが、その後が大変だった。

奴隷たちが怯えにくいようにと子ども姿のティナが状況を説明することになったのだが、奴隷たちは六隻の船と浜辺に分散している。

そのため一旦は上陸していた奴隷たちを船に戻し、甲板に集まってもらっての映像による説明会を行った。


まずティナは現在の状況を説明して、奴隷からの解放を宣言。

故郷に帰るか妖精王国の属国に住民として帰化するか聞いたところ、全員が帰化を希望した。


どうやら今回奴隷狩りに来た国は、周辺国を襲って若い者だけを奴隷化し、残りは虐殺すると言う非道を行っていたらしい。

今更故郷に戻っても、家族はいないし支配地域になっているために再度奴隷にされるだけだと訴えられた。


現在シャルト共和国では、直轄領で大規模な農地開拓を行っている。

甜菜や胡椒、綿花の栽培用なのだが、畑を世話する農民がいないため、国営農地としてドローンで耕作するかとティナは考えていた。

だが人が耕作してくれるなら、その方が人の営みとして自然だ。

いずれは貧民対策などで人に耕作してもらおうと、住居はすでに建ててある。


それに元奴隷たちはシャルト共和国と同一の言語を使っているため、ホーエンツォレルン領やバンハイムに移住するよりは、言語を覚えなくてもいい分、よほど馴染みやすいだろう。


問題は元奴隷たちが若い男性ばかりだと言うことだが、いずれシャルト共和国の女性を嫁にもらえば、融和は加速しそうだ。


ただ、いきなり五百人もの人を輸送するのは想定外だったため、クール君二号機とキャリー君を入れ替えての輸送手段確保し、移住先の近隣住民への事前通達を手配。

ホーエンツォレルン城からは、受け入れ用物資を積んだローバーとデミちゃんズを移住先に先行移動させ、移住者受け入れの準備。

停泊している六隻の船では、積んであった食料で元奴隷たちに食事を摂らせ、明日の朝に大型飛行輸送艦で移住地に移動すると伝えた。


クール君一号機は侵略行為を始めた国の首都にドローンを乗せて送り出し、キャリー君の艦長室に移動したティナは、続いて報復措置の指揮を執った。


敵兵から読み取った記憶を基に、今回の奴隷狩りの首謀者を特定。

国王や国の重鎮が奴隷狩りを命じていたため、報復として相手国王城の破壊を決断。

今回の侵略行為を宣戦布告と受け取り、妖精が住まう大陸の王として敵国の王城に流れ星を落とすと、王都中に聞こえる音量で宣言した。

そして十分の退避猶予を与えたのち、衛星軌道にあるα-2からトマホークサイズのミサイルを発射した。


夜のとばりが下りた敵国首都上空から、高速で落ちて来るミサイル。

あたりが暗いためにミサイル本体は見えず、まるで本当に隕石が落ちて来るかのように見える噴射炎。

王城中心部に着弾したミサイルは、大きな爆発音と爆炎を上げ、王城の上半分ほどを破壊した。


そののち再度妖精王としての音声で、『人を奴隷として使い利を得ようとする愚か者どもよ。今回の報復はただの警告だ。奴隷を人として遇さぬなら、また罰を与えてやろう』と警告した。


着弾を確認したティナは、クール君で運んだ小型中型ドローンを放ち、魔素発電機を王都から一番近い魔の森に設置した。


「お疲れさまでした」

「いや、本格的に疲れるのは、多分明日だから。受け入れ先での説明や案内が大変そうだよ」

「それはデミ・ヒューマンたちが頑張ってくれますよ。ローバーには乗り切れず、クール君一号機の帰着を待っていますから。クール君も二往復しないと人員を送り切れませんね」

「え? 任意参加にしたよね?」

「はい。ですがハルシュタットで固定業務のある者以外、全員が参加を望みました」

「まじ?」

「ティナは出来る限りデミ・ヒューマンを自由にさせようとしていますが、デミ・ヒューマン自身は外的な刺激を好む傾向が強く、未知の体験は進んでやりたがります」

「…実地研修の期間が短すぎるのかな?」

「いえ、元々働くために生まれた者たちですから、働くことが生きがいのようなのです。未体験の仕事だと、新たな遊びを見つけたように喜びますね」

「…社畜にならないように、しっかり面倒見てあげないと」

「自分に合う仕事を探す職業体験的感覚のようですよ」

「それならいいの…かな?」

「大丈夫です。規範意識の中には就労時間を守ることも含まれていますから、社畜化することは無いでしょう」

「なるほど。あとは余暇を楽しんでくれればいいね」

「初期世代のデミ・ヒューマンたちは皆が余暇を色々な趣味に充てていますから、後続もおそらく問題無いでしょう」

「ならちょっと安心かな」

「デミ・ヒューマンよりも、ティナの方が最近はオーバーワーク気味ですよ」

「……そうかも。なんだかんだ起こるから、ついね。じゃあ、今日はお風呂入って休むよ」

「食事を忘れてます」

「あ、うん。ちゃんと食べる」

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