冷徹な人格

「ティナ、質問があるんですが、この映像を見てどう思いますか?」

「…船団だよね。これがどうかしたの?」

「この船団、通常航路を無視してこの大陸の南東端を目指しています。衛星軌道からの映像なので不鮮明ですが、所属を示す旗を上げていません」

「大型船だよね?」

「はい。映像解析から、定員五百名ほどの大型の軍用船と思われます」

「だと、六隻で最大三千人か…。でも、侵略戦争とかなら自国の旗を掲げてないのはおかしいな。……嫌な予感するから、対策しておいた方がいいかも。到着予想地域と時間は?」

「現在の速度と進路だと、あと二時間ほどで、この大陸の南東端にあるルーマナ王国の沖合に来ます」

「…私がクール君で向かうよ。小型ドローン六機と医療ポット、残りは中型ドローン乗せておいて」

「キャリー君は動かさないので?」

「今はバンハイムの大型ドローンを新首都建造現場に集めちゃってるから、バンハイムで何かあった時用の足に残しておきたいの」

「了解です。想定地域まではここからおよそ1,400kmで、近くにはドローンも充電設備もありません。現地での活動が長引いた場合、クール君のバッテリーだけでは電力不足になることが予想されます。クール君二号機で、アオラキにある魔素発電機と小型中型ドローンを積んで先行させます」

「…無駄足になるかもだけど、一応戦力は準備しといた方がいいか。手配お願い」

「了解です」


正体不明の軍船と思われる六隻の船団。

しかも海流や風の方角から設定された通常の航路を無視して、一直線にこの大陸の南東端を目指している。


軍事侵攻? それとも船内で疫病が発生したか水や食料に問題が出て一番近い大陸を目指しているのか? あるいは新航路を開拓して目的地との通商でも始まったのか?

いずれにしても、旗を掲げず所属を隠す理由が分からない。

一隻なら揚げ忘れなどの人的ミスもあるかもしれないが、六隻全てともなれば、それは故意に所属を隠したいということだろう。


目的地は妖精王国の属国でも友好国でもないが、ティナとアルは安全面を考慮して対応出来る戦力を現地に送ることにした。



「船団、沖合に停泊して小型船を出しています」

「港に入らないのは、国交が無いから? それとも疫病とかが発生してて極力病気を持ち込まないようにした?」

「この国に、大型船が寄港できる港はありませんよ。その可能性が低いのは、もう分かってますよね?」

「…儚い希望くらい持ってもいいじゃん」

「魚港や他の町から見えない位置に停泊して、魔の森に小舟で向かっているのにですか? 大体自分で儚い希望なんて表現してる時点で、ティナの希望通りにはならないと言っているようなものです」

「はぁ、儚い希望も消えちゃったか…。小舟に乗った人たち、武装してるよね?」

「はい。通常武器に加え、棒の先に筒を付けたような形状の物も多数見えますね。これです」

「…タンネンベルク・ガン?」

「ティナの記憶からすると、一番近い形状ですね」

「魔獣狩り…なんてわざわざ別大陸に来てまでするわけ無いか」

「まだ他の可能性を探そうとしていますね。ティナがそれほどに忌避したい事象とは何ですか? いい加減諦めて教えてください」

「……奴隷狩り。それも国が主導してる大規模な奴」

「所属旗を上げず、人の住む場所からは見えない位置に停泊して、武装してわざわざ魔の森の浅い位置に小舟で上陸しようとする。後ろ暗い行動なのは分かりましたが、国主導の奴隷狩りですか。常軌を逸してますね」

「そうなんだよねぇ…」

「小舟に接近したドローンが会話を拾いました。山脈の南側と同一の言語です。魔の森内に隠れて兵を上陸させ、近くの町を襲って拠点化すると言っていますね。ああ、他の小舟では、若い女性の確保が最優先とも話しています」

「確定しちゃったかぁ…。この国の港は大型船が入れない。だから兵力を小舟で降ろして魔の森内で集結させ、夜陰に紛れて近くの町を襲う気かな」

「魔の森でも、浅い位置ならほとんど魔獣はいませんからね。それでいて住民たちは魔の森には近付きませんから、ある程度の武力があれば、隠れるには格好の場所というわけですか」

「アホだよね。魔獣よりもっと怖いのがここにいるのに。ドローンは大型船に侵入出来た?」

「兵が次々に出てくるため、まだ内部には侵入出来ていません。船ごと沈めた方が早いのでは?」

「そうしたいけど、船に奴隷が乗ってたら可哀想だから、先に確認したいの」

「なるほど。別大陸にまで奴隷を狩りに来るような奴らですから、船での重労働も奴隷に任せている可能性が高いですね。ですが確認を待っていると、小舟が上陸してしまいそうです」

「仕方ないよ。どうせ予定してる兵数が上陸するまでは動かないだろうし、夕方までは斥候出すくらいでしょ」

「…ティナが対人戦を行うつもりですか? ドローンで対処しますよ?」

「嫌。私が直接手を下す。私は奴隷狩りするような奴を、人間とは認めない」

「…了解です」


アルは、ティナの脳波が意外に凪いでいることに安堵しかかったが、この状況でその反応は、却っておかしいと気付いた。

普段のティナは、感情と脳波やホルモンの分泌が、かなりダイレクトにリンクしている。

それなのに今は、感情による揺れが全く検出されないのだ。

これではまるで、冷酷で冷徹な全く違う人物をモニターしているようだ。


おそらくティナは、戦闘時の軍の指揮官のような冷徹な人格に、自身の人格を切り替えられる。

元々が軍船のAIだったアルは、現在の所有者であるティナの有能な指揮官ぶりに歓喜し、アルフレートの肉体から勝手に還って来る生理的反応に、不思議な高揚感を覚えた。

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