手を出し過ぎたかも

カユタヤにシャルト共和国からの抗議文が届いてから数日、カユタヤの外交部門は一斉監査を受けることになった。

シャルト共和国からの商取引停止を匂わす強い抗議文に加え、多くの新聞社が外交部門内での賄賂受け渡しやイングラム王国での犯罪行為を報じたことで、国家を統率する評議会として動かざるを得ない事態になったのだ。


外交部門と敵対する勢力が住民を煽ったため、一部の住民たちは仕事をボイコット。

なにせ自分たちが働いて納めた税金から給金を貰っている議員が、不正に得た金を賄賂に使って処分を免れようとしたのだから。


結果、賄賂を受け取った者とデマルコは議員資格を剥奪され、外交部門からも罷免された。

ここまではティナの目論見通りだった。

しかし犯罪者である証拠が出ているのに捕縛すらされなかったため、住民たちの怒りは反って大きくなってしまった。


ボイコットが拡大して港での積み荷の上げ下ろしに支障が出始めると、商品の経時劣化を恐れた商人たちからも不満が噴出し、統率評議会は慌てて贈収賄容疑で対象者を捕縛し、取り調べ中とのポーズを執った。


ティナとアルは新聞記事程度では証拠能力が低いために捕縛にまでは至らないだろうと予想していたが、住民たちにとっては新聞記事だけで仕事をボイコットするには充分だったのだ。


このまま捜査がなされてデマルコの資産が凍結されると、侯爵家の家宝まで国に没収されかねない。

しかもデマルコ当人は逮捕されてしまったため、屋敷にいる時よりも仇討が難しくなってしまった。


慌てたティナは、記憶スキャンで得ていた情報から、デマルコの愛人宅に隠してあった家宝をアンドレたちに奪還してもらった。

愛人宅にもある程度の警備はいたが、毎日ホーエンツォレルン城で特訓三昧なアンドレたちの敵ではなかった。

なにせアンドレたちは、剣術を極めようとしていたデミ・ヒューマンから、色々な技を伝授されていたのだから。


そしてデマルコの捜査にインビジブルドローンで介入し、大罪の証拠を事前に隠蔽。

犯罪者に助力するような行為にティナは抵抗を覚えたものの、アンドレたちの仇討のためにと、デマルコが国外追放になる程度の証拠だけ残した。


この時代には刑務所などという施設は無いため、死刑にならなければ苦役か国外追放がほとんどだ。

苦役は庶民階級の犯罪者に充てられるのが一般的で、知識人や上位階級だった犯罪者は、財産没収の上で国外追放されることが多い。

体力的には重労働に向かず、未検挙の手下がいれば苦役の監視役が襲われて脱走される可能性もあるからだ。


ティナの作戦は功を奏し、デマルコは無一文で国を追われた。

デマルコは架空の人物名義で買ってあった別荘に逃げ込もうとする途中で、アンドレたちによって打ち取られた。


見事本懐を遂げたアンドレたち一行は、ティナにさんざんお礼を言って祖国に向かった。


「ティナ、今回は少々手を出しすぎたのでは?」

「うん、反省してる。いくらアンドレさんたちに敵討ちの助力の約束したからって、正規の捜査の邪魔しちゃったのはやり過ぎだよね」

「正規の捜査と言っても、シャルト共和国に対するポーズのようなものでしたから、結論ありきの捜査ですけどね」

「そうね。自国の外交部門が大罪犯してたら外聞悪いから、証拠隠さなくても国外追放程度の犯罪立証しかしなかったかもね」

「この世界の犯罪捜査って、あくまで国益重視の編重捜査なんですね」

「残念ながら、法自体が国益重視で出来てるからね。それより、デミちゃん傷付けた犯罪者どもの国はどうなったの?」

「教王は未だやけどで政務が出来ないため、交代が決まりました。ただ新教王の選出には時間がかかりそうです」

「…ひょっとして、有力候補者も不正しまくってた?」

「はい。不正暴露映像で有力候補が軒並み住民の支持を失っているため、民に人気の高い者を昇進させて教王に就けようとしていますね」

「…人気取りの傀儡政権になりそうだね。あんましひどいようなら、また暴露しちゃって」

「了解です。秘密充電拠点は完成間近ですが、工事用大型ドローンはどうします?」

「拠点出来たら引き上げちゃって。住民助けるのは、大規模にしなくていいから」

「了解。ドローンの製造もやっと配備需要に追い付いて来ましたので、隣国以外の他国への配備も検討しますか?」

「他国にも、先に秘密充電拠点作ろうよ。この大陸で情報収集ドローン未配備の国って、どれだけ残ってるんだっけ?」

「属国化していない七か国の内、近隣国を除く四か国ですね。魔素発電機を製造中ですので、完成したら充電拠点づくりも楽になります」

「おお、やっと出来るんだ」

「魔の森内なら魔素濃度が高いので、仮設置による一時的な拠点運用も可能です」

「いいねいいね。じゃあ魔素発電機出来たら、残り四か国も情報収集しよう」

「了解です」

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