両方追い詰めてやろう
「ティナ、カユタヤのデマルコ議員への工作、残念ながら目的を達成出来ていません」
「あれはまだ作戦続行中でしょ?」
「周りにかなりの賄賂をばら撒き、処分は叱責だけにとどまるようです。新聞社との仲たがいも、あまり功を奏してはいませんね。結果、情報発信力も落ちず、屋敷を守る兵力も減っていません」
「まだだよ。シャルト共和国からの抗議文が着いてからのお楽しみだから。それと、各所へ賄賂蒔いた映像は撮れた?」
「さすがに焦ったようで、いつもの慎重さがありませんでしたから、そちらの映像は確保出来ました。ですが、シャルト共和国からの抗議文は、あまり意味が無いのでは?」
「前回シャルト共和国でやらかしたのは、同じ外交通商部門の奴だった。今回出した抗議文は、外交部門の違う人間の不正が新聞に載ったことで、外交部門自体が信用に値しないって、わざわざ複数の違う部署に宛てて出したの。これで他部署から睨まれる土壌が出来た。そこに処分を逃れようと賄賂ばら撒いたことで、却って不正を積み重ねたわけよ。だから次はその証拠で追い詰める」
「ですが今回は、妖精王国の関与は表に出さないのでしょう? そうなると映像を公開するわけにはいきませんよ」
「賄賂もらった奴らバラすだけでいいのよ。で、今度は全部の新聞社に情報を渡すの。今回はシャルト共和国から強い抗議が来てるから、隠してその議員をゆするネタには出来ないし、外交部門とは癒着してない勢力の新聞社なら、スポンサーの意向で記事にするはずだよ。前回の記事があるから、処分が甘かったら賄賂渡したことに信ぴょう性が出て、今度は外交部門全体が疑われる」
「…それで失脚させることに成功したとしても、屋敷を防御している兵は減らせないのでは?」
「イングラム王国侯爵家の家宝を盗んで、屋敷に隠してるから警備が厳重なんだって記事も入れる」
「…侯爵家の家宝は、所在不明ですよ?」
「実際に屋敷に無くても、そう疑われたら警備強化は出来ないでしょ。家宝のありかは、眠ってる隙に医療ポットにご招待して、記憶スキャンで確認しとけばいいし。あ、時々部屋の物を数個、位置動かしといて」
「動かすだけですか?」
「仲間のはずの誰かが、部屋を漁ったように思わせるの」
「了解、その方向で作戦継続します」
「うん、お願いね。それより、腹立つ犯罪宗教国家はどうなったの?」
「そちらは思惑以上に事が運んでますね。誘拐実行犯が勝手にやったことだとして処刑し、暴露映像は悪魔のまやかしで信仰を試されているとか言ってますね。ですが教王が実際にやけどまみれになっていますから、信仰を汚して神の加護を失ったとうわさされています」
「教会上層部の不正の証拠映像は集まってる?」
「指導的立場の人間の、三割ほどしか集まっていません」
「もうちょっと貯めておいて、騒ぎが沈静化しそうになったら一気に上映しちゃおう」
「了解です」
「デミちゃんたちを傷付けたやつらだから、思いっきり苦しんでもらおうね」
「楽しみですね。…話は変わりますが、シャルト共和国学舎の教員指導は、ホーエンツォレルン城からの映像指導で良いのですか?」
「うん。首都で政務してるデミちゃんたちも、いずれはここからの映像による指示にしたいの」
「誘拐や暴漢対策ですね。ですが、人との接触が感情を育てるんじゃなかったんですか?」
「本当はそうしたかったんだけど、ドローン二機付けてても怪我させちゃったから…」
「今はひとり四機付けてます」
「過保護…、は私の方か…。でもバンハイム共和国にも仕事で結構デミちゃん派遣しちゃってるから、本当はもっと自由にさせてあげたいんだよね。だから基本は映像での指示出しとかにしようと思って。もちろんデミちゃんが行きたいって言うんなら止めないけどね」
「バンハイム共和国の学舎で、デミ・ヒューマンを慕っている子どもたちが結構いますよ」
「うあ~、やっぱりかぁ。狙ってたことだけど、デミちゃんたちを引き上げにくくなったなぁ…」
「バンハイム共和国は治安もかなり改善していますし、今や住民の大半が妖精教信者です。東国も友好的ですし、西にある小国も砂糖と綿製品が欲しくて友好関係を望んでいます。ですから、学舎のデミ・ヒューマンが襲われる可能性はほぼありません。今すぐ引き上げる必要は無いのでは?」
「まあ、そうなんだけど…。デミちゃんたち、早く自由にさせてあげたいなって思ったの」
「新年会の後に派遣しているデミ・ヒューマンたちの希望を確認しましたが、ホーエンツォレルン城に戻りたがっている者はいませんでしたよ。子どもたちとの触れ合いや住民たちとの交流、日々変化する行政への対応が良い刺激になっているようで、かなり楽しいそうです」
「不満が無いならいいんだけど」
「不満はありましたね。ティナのお世話が出来ないことらしいです」
「え、何それ?」
「個別に数日連休を与えてこちらに戻らせ、ティナのお世話をさせれば文句は出ないでしょう」
「私、お世話されてばかりだと、だんだん心苦しくなってくるんだけど…」
「たまにはひとりでの遠出も認めますから、デミ・ヒューマンたちのためにある程度は付き合ってあげてください」
「…そうする」
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