閑話 神様は、ちゃんといた
私の名前はリーナ。サウエチア教国のはずれにある教会併設の孤児院で、孤児の面倒を見る下働きをしてる。
私は元々この孤児院に拾われた孤児だった。
食べる物も少なく、着る物もぼろ布を縫い合わせた物しか無いような生活で、病気になっても部屋の片隅で苦しさに耐えるしかない場所。
一緒に生活している子どもたちが、朝起きたら死んでいることもたまにあるような場所。
だけどそんな場所でも、子どもが食べ物をもらえる場所なんて他に無いから、我慢して暮らしてた。
一年位前に、私たちの面倒を見てた怖いシスターが病気で死んじゃったから、それからは歳が一番上の私が小さい子たちの面倒を見るように神父様から言われた。
この孤児院は神様の慈悲で運営されているとか神父様は言ってるけど、私は嘘だって知ってる。
孤児院のために使って欲しいと喜捨してくれた人のお金で、神父様はお酒を買ってたから。
子どものためにと服や食べ物を寄付する人がいると、受け取った後で文句を言いながら、古着屋に売ったり自分で食べたりしてるのだって知ってるんだから。
神様ってホントにいるの?
あんな神父様が言うことなんて信じられないんだけど。
そんなある日、孤児院に若い男の人がやって来た。
神の僕のひとりとして、私たちを引き取って面倒を見たいそうだ。
神父様は喜捨すれば充分なくどく(?)になるって言ってるけど、お金をもらって自分が使う気だと思う。
だけど男の人は苦労してでも子どもたちを育てることで、普段から見守ってくれてる神様へのお礼がしたいんだって言ってる。
普段自分が『苦労することは神様への忠義になる』とか説教してるんだから、若い男の人が言ってることを否定できずに困ってやがる。
頑張って、若い男の人。そして私たちを引き取って、せめて死ぬ子がいない程度には食べさせて。
しばらく話し合ってた二人だけど、若い男が聖都の司教様発行の孤児譲渡許可証っていうのを出して神父に迫り、私たちはもらわれていくことになった。
男の人はさる貴族に仕える執事で、アルフレートさんというらしい。
私たちは少ない荷物をまとめ、馬車三台に分乗して町の外を移動。
しばらく進んだら、昼食を摂るからと家みたいに大きなテントがある場所で馬車を降りた。
テントの中ではきれいなお姉さんたちが食事の支度をしてて、すごく美味しそうな匂いが漂ってた。
私たちは匂いにつられ、出された食事に飛び付いた。
ものすごく美味しい!
今まで食べたどんなものより美味しくて、おなかがはちきれそうになるまで食べた。
だって、いくらでもお替りさせてくれたから。
食べ過ぎて重くなった身体を何とか動かして再び馬車に乗り込んだんだけど、満腹すぎてすぐに眠ってしまった。
気付いたら、知らない部屋のふかふかベッドで寝てたの。
あまりの気持ちよさに起きる気になれなくてベッドの上でゴロゴロしてたら、同じ部屋で寝てたみんなも目が覚めたみたい。
でもやっぱり起き上がろうとしないで、ゴロゴロとベッドを楽しんでた。
分かる! こんなフカフカベッド、出ちゃったらもったいないよ。
しかもひとり一台ベッドがあるなんて、ものすごく贅沢だ。
ベッドに潜ったままベッドやお昼の食事の感想をおしゃべりしてたら、お昼の食事を作ってくれたお姉さんたちが部屋にやって来た。
でもね、部屋に入らずドアをノックして、部屋に入っていいか聞いてくれたんだ。どこかのお嬢様になった気分だったよ!
お姉さんたちは、起きた私たちを先導して廊下に出た。
何ここ? さっき寝てた部屋もきれいだったけど、廊下もきれいで窓にはガラスがいっぱい。
しかも窓から外が見えたんだけど、すごくきれいな町と湖が見えた。
ハルシュタットって言う町らしい。
そして案内されたのは―――
お風呂だよお風呂! 近所に住んでる裕福な家の子から聞いたことがあったんだけど、私たちが入れるなんて思ってもみなかったよ!
男の子たちは若い男の人たちと一緒に、隣の扉に入っていった。
え? 男と女で、別々にお風呂があるの?
裸って、ある程度の年齢になったらいせい(?)には見せないんだって。
特に女の子は、男の子には見せちゃいけないらしい。
私たち、お風呂の入り方なんて知らないからどうしようと思ったら、お姉さんたちがスカートの裾を縛って濡れないようにして、一緒に入ってくれたんだ!
それに、私たちを洗ってくれたんだよ! お水で身体を拭くんじゃなくて、あったかいお湯を使ってぼでぃいそおぷっていうので身体を泡泡にして!
それだけじゃなくて、頭まで洗ってくれたんだ。頭専用のしゃんぷーっていうやつで、何度も洗ってくれたの。
私たちの頭はだいぶ汚れてたみたいで、毎日洗うなら一回でいいみたい。
聞いた? 毎日お風呂入っていいらしいよ。
それどころか、きれいにしてないと病気になりやすいから、出来る限り毎日入りなさいだって。そんな贅沢していいの?
頭と体を洗い終わったら、お湯に浸かるらしい。
何これすごく気持ちいい!!
気持ち良すぎてみんなの顔がボーっとしちゃってるけど、あまり長く浸かると暑い日に太陽の下にいるのと同じように、くらくらして気持ち悪くなるらしい。
お姉さんたちに浸かる時間を教えてもらってお風呂から出たら、もこもこしたふわっふわの布で身体と頭を拭いてもらった。
全然ゴワゴワしてなくて、すごく柔らかい布だった。
そして服を着ようとしたら、出て来たのは新品の下着。
え、こんなの着ちゃっていいの? 怒られない?
…服も下着も、毎日着替えるように言われた。
孤児院ではいつも贅沢するなって言われてたのに、ここだと贅沢するように言われる。ここっていったいなんなの? 私たちって、ひょっとして死んじゃって天国に来たの?
なんだか少しずつ不安になって来た。
お姉さんたち魔法が使える! すごいすごい!
魔法であったかい風を出して、髪の毛を乾かしてくれたの。
このお姉さんたちって、ひょっとして天使なの? やっぱり私たち死んじゃったの?
その天使かもしれないお姉さんに、夜寝るための服を着せてもらった。
なんだかひらひら付いてて、とっても可愛らしい新品のワンピース。
下着と一緒で、すごく肌触りがいいの。
でも、寝るための服って何? 下着で寝るんじゃないの?
次に連れて行かれたのは食堂。
テーブルにはサンドイッチやきれいな色の付いたお水? みたいなのが置かれてた。
え? 果物のしぼり汁? じゅーすっていうの? 果物って食べる物じゃないの? すごく高いって聞いたよ?
お昼食べ過ぎてたから、夜は少なめにした方がいいよって教えてくれたけど、私たちはそれどころじゃない。
じゅーすの入ったコップ、ガラスだよ!?
教会のガラス拭く時、割ったらすごく折檻されるんだよ? 怖くて触れないよ!!
…わざと割ったら叱るけど、ミスで割ったのは怒られないらしい。
怒ると叱るって、どう違うの? 折檻は?
恐る恐るじゅーすに口を付けてみたら、ものすごく美味しかった。
お風呂を出た後や汗を掻いた後は、ちゃんと水分を補給しなさいだって。
そっか、じゅーすは今日だけなのか。なんだかちょっと安心。
え? 毎日飲んでもいいの? そんなことしたら、天罰落ちない?
…あの、お姉さん。サンドイッチは差し入れされたのを食べたことあるけど、なんでこのサンドイッチはこんなに柔らかいの?
は? ここのパンはわざと固く焼かない限りこのパンなの?
え? お菓子みたいなパンもある? 毎日このパン?
……やっぱりここって天国なんだ。
神様、いないんだなんて思ってごめんなさい。
毎日お祈りしますから、どうかずっとここにいさせてください。
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